トップページ > 運営ホームページ  > 紙上博物館 > 絶滅の危機にひんする弱きオニ

第20話 絶滅の危機にひんする弱きオニ


オニバスの葉(レプリカ標本)

オニバスの葉(レプリカ標本)

ため池に生育するオニバス

ため池に生育するオニバス

絶滅の危機にひんする弱きオニ 直径1メートル超の葉浮かべ

 オニバスは、ため池など流れのない水面に、直径1メートルを超える葉を浮かべる水草である。その大きさと、葉や葉柄などにある大きな刺(とげ)から、オニ(鬼)の名がついている。国内で確認された最大の葉は、直径2.6メートルもある。驚くべきことに、これほど巨大な葉をつけるにもかかわらず、一年のうちに発芽・成長・開花・結実・枯死する一年生植物(一年草)である。
ハスと呼ばれているが、分類上はハス科ではなくスイレン科に属している。春先に種子は水底で発芽する。水中でひろがる葉は、出るごとにその形を針形から矢じり形へと変化させる。やがて楕円(だえん)形の葉が水面に浮かぶようになる。この頃(ころ)は、オニバスの名の由来である刺は見られない。その後、成長とともに葉は巨大化して円形となり、刺や凹凸が顕著になる。
 オニバスはアジア東部(日本・中国)からインドにかけて分布している。日本では本州、四国、九州のやや濁った湖沼や河川で見ることができる。しかし、ため池の埋め立てや河川改修、水質の悪化などから、近年減少が進んでいる。県内ではハリバスとも呼ばれ、桑名市・津市・志摩市で生育が確認されているが、自然状態での発芽が毎年確認できる生育地はない。そのため、県指定希少野生動植物種に指定され、貴重な植物として保護されている。
 さて、オニバスは別名ミズブキ(水蕗)とも呼ばれ、葉柄を食用にし、種子も食用や薬用に用られる。古くから知られていたようで、『枕草子』では、見た目が恐ろしげなものとして、また、平凡だが漢字で書くと大げさなものとして「水芡」(みずふぶき)の名があげられ、その他の古典にも登場する。
 県立博物館では、さく葉標本(押し葉)以外に、実物の葉や種子を樹脂の中に封入した標本と、実物の葉をモデルに樹脂で製作したレプリカ標本を収蔵している。オニバスの葉は巨大なため、さく葉標本をつくる際には、葉の一部や小型の葉を用いる。そのため、オニバスの大きさや、刺をもつ立体的な形状を観察できるように、樹脂封入標本やレプリカ標本(葉の直径約90センチ)を用いている。
 夏から秋にかけてオニバスは水面に直径約4センチ の紫色の花をつける。花は葉の大きさに圧倒されて目立たない。また、水面で開く花とは別に、花びらの開かない花を水面下に多数つける。この花の内部では、雄しべの花粉が直接雌(め)しべにつくことで自家受精が行われ、確実に種子を残す。種子は球状で直径1センチ程度である。種子を包む皮の浮力でしばらくは水面に浮いて移動し、やがて水中に沈む。
 オニバスの種子は発芽のきっかけがないと、永い眠りにつくことがある。ため池や水路の清掃で、種子が空気にさらされたり、底の泥が攪拌(かくはん)されたりすると発芽することが知られている。桑名市の水路や、津市内のため池でも数十年ぶりに生育が確認された事例がある。
 私たちの周囲には心躍るような事柄が埋もれている。きっかけを得てオニバスが永い眠りから覚めるように、博物館の活動が刺激となり、地域の秘められた魅力が目を覚まし、花を咲かせてほしい。                   

(三重県立博物館 松本 功)

トップページへ戻る このページの先頭へ戻る