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県内最古の三尊像、津市片田薬王寺の仏様


 お釈迦様は、今から2,500年ほど昔、北インドの、今のネパール国境に近いルンビニーという所で生まれました。北方系の伝記によると、4月8日のこととされています。以来、仏教圏ではこの日を祝う行事が行われ、日本でも「仏生会(ぶっしょうえ)」・「花まつり」といった名称で親しまれています。この日にちなみ、毎年4月の第一土曜日にだけ見ることができる津市片田薬王寺の薬師三尊像という仏様についてお話したいと思います。
 中央に坐るのが薬師如来で、世の中の人々の病苦を除き安楽を与える力を持った仏様と言われています。また、両脇に立つ像は、向って右が日光菩薩、左が月光(がっこう)菩薩で、薬師如来を助ける仏様です。このような形式の像を「三尊像」と呼び、この仏様は、三重県に残る三尊像の中で最も古く、また大変優れた作品でもあるため、重要文化財(管理者 光善寺)に指定されています。
 薬師像は、高さ95センチで、頭と体の主要部分を一本の材木から造っています。こうした方法を「一木造(いちぼくづくり)」と呼びます。球のような丸い頭部や左右に張り出した肩、厚みのある胸、盛り上がった膝など、全体的にがっしりとした堂々たる姿です。しかし、顔を見ますと、おだやかな、どこか優しい表情をしています。体つきと表情が不釣合いな印象さえ感じられるかもしれません。
 左右の菩薩像も、薬師像と同じく量感あふれる姿で、腰をわずかにひねるなど、全体の動きもうまく表現しています。しかし、顔立ちは、温和な表情となっています。
 一般に、平安時代の仏像は10世紀ごろを境にして、量感豊かな力強い作風から、次第に優美でおだやかなものへと変化していきますが、光善寺の仏様は、こうした変化が進行していく途中の、言わば過渡的な時期の制作と見られます。したがって、制作年代は10世紀と考えてよいでしょう。
 この仏様は、もと当地にあった「薬王寺」というお寺の本尊と伝えられています。薬王寺は既に廃絶し、地名にその名を残すのみとなっていますが、現在の薬師堂(収蔵庫)の建つ丘の上は、薬王寺の伽藍のあった所と言われています。
 近くには桜の木もあり、山あいの風景も楽しむことができます。一度訪ねてみてはいかがでしょうか。

(平成5年3月 瀧川和也)

月光菩薩

月光菩薩

薬師如来

薬師如来

日光菩薩

日光菩薩

参考文献

『伊勢片田村史』昭和34年
『重要文化財 彫刻I』毎日新聞社 昭和48年
久野健『平安初期彫刻史の研究』吉川弘文館 昭和49年

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