42 算額のねらいと県内の例
Q 先ごろ新聞に、伊賀町で「算額」が発見されたという記事がありましたが、算額についてもう少し詳しく教えてください。また、県内にはほかにも例があるのでしょうか。 (平成七年一月 県内個人)
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A 「算額」は、絵馬の一種です。和算の学者が新しい問題あるいは解法を得た際に、それらを額に描いて神社・仏閣に奉納したもので、神仏に感謝するとともに、問題や解法を広く伝える手段としての意味もありました。 算額の風習は江戸時代前期から始まったようですが、現存する最古のものは、栃木県佐野市の星宮神社にある天和三年(一六八三)奉納のものです。 近年調査が進み、全国で八〇〇面以上の算額が確認されています。中には朽ちて失われたものもあったはずですから、それらを含めると、かなりの数にのぼるものと思われます。初期の算額はあまり多くありませんが、文化・文政(一八〇四~一八三〇)頃から慶応(一八六五~一八六八)にかけてのものが約四〇〇面残っており、明治や大正期の算額もたくさんあります。地域別に見ると、東北・関東地方に多く、一〇〇面近い算額が発見された県もあります。 三重県では、現在、一〇面ほどが四日市市・菰野町・上野市などの神社・仏閣で発見されています。県内で最も古い算額は、四日市市川島町にある川島御厨神明神社の寛政二年(一七九〇)のもので、同神社にはほかにも二面の算額が現存しています。 また、上野市菅原神社の算額は早くから注目され、大正四年(一九一五)発行の伊賀史談会『会志』にその概要が報告されています。その算額は、嘉永七年(一八五四)に「蝙蝠堂門人喰代屋庄右衛門」が奉納したもので、五つの問いが掲げられています。 これら算額に描かれた問題は一般的には図形を用いた問題が多く、いずれもかなり難解なものです。菰野町広幡神社の算額の問題は、解答するにはノート二ページ分にぎっしりと式が並ぶほどのもので、研究者によると「大学受験生で解けるが、かなり計算力がいる」という高度なものです。 伊賀町で発見された算額は、方程式の問題で比較的珍しい種類のものです。研究者がパソコンを使って検算し解読しましたが、現在でも大学レベルの問題ということです。 算額は、当時の和算の高い水準を示すとともに、地方にも、こうした和算家がいたことがうかがえる貴重な資料として注目されます。 |
参考文献
野史樓「絵馬調べ」『会志』第八号 伊賀史談会 大正四年
算額(菅原神社蔵)