『旅の一句』募集 入賞作品
旅をすみかとし、旅に生きた「俳聖 松尾芭蕉」
その芭蕉のふるさと三重県が行った『旅の一句』の全国募集。
最終的に136,963句のご応募をいただくことができました。
これらの作品は、選者の黛まどかさんにより厳正に選考され、このたび最優秀賞・優秀賞をはじめとする入選作品が決定いたしました。
三重県
「旅の一句」選句総評
まず、このたびの「旅の一句」に、全国から13万7千句もの作品が寄せられたことは、大きな驚きでした。そして、応募の数の多さもさることながら、それにも増して私は日本人が「旅」にこれほど深い関心と多くの物語りを抱いて生きていることに感動しました。しかも、それはただ深い関心を持っているということではなく、この沢山の日本人の裡に、旅を俳句という17文字に託す感性が私たちの中に生きているのです。旅は、『私たちの感性の限りない豊かさそのもの』のように思えます。
また、この「旅の一句」募集中に、芭蕉さんの『奥の細道』の直筆と思われる1冊が発見され、本物にほぼ間違いなさそうだという俳句史上の大事件に出会いました。それもまるで今回の募集に合わせたかのようなタイミングです。このとき「なぜ」、「いま」、「その本が」・・・と、不思議な因縁めいたものを感じたのは、私ばかりではありませんでした。
芭蕉さんは、その生涯のほとんどを「旅」に生き、俳句が日本人独特の表現形式となる大きな礎を築いたひとりです。
彼によってひらかれた歌枕の旅は、私たちの“原型”になっている気がします。
時代とともに旅の様式は変わりましたが、いまも私たちの裡には、芭蕉さんの心が生き続けていることを、13万7千の「旅の一句」は教えてくれました。
(黛 まどか)
最優秀賞
葉にできた実のような虫溜の空洞を吹いて鳴らす。その「瓢の実」をくれた人も、作者と同じ旅びと。
旅ごころの通じ合った一瞬。
優秀賞
旅に出る前夜のこころのはずみを、春の燈、「春燈」という短い言葉で巧みに現した一句。
作者は旅鞄を幾度も開け締めする。
奈良公園の5月頃には、まだ角の生えない鹿の子に出会う。
なんとなく歩きだしたのを、「さびしくなれば」と解釈したのは、作者。
昔は、ニシン漁に春さき北海道へ雇われていくのを「渡り漁夫」といった。
別の目的で旅をしている者同志が触れ合った、感懐。
特別賞
美作も備前も安芸も田植えかな |
木村 壽生 |
軒寄せて海のもの売る朧かな |
村中 とうこ |
旅の窓だんだん本気になる花火 |
田中 清司 |
遙か来て芭蕉生家の扇風機 |
藤縄 慶昭 |
大根の芽出揃って旅に出る |
岡田 きさ |
宿とりてさてこれからは秋の夜 |
片山 智恵野 |
うろこ雲旅に無頼派愛妻派 |
北川 和雄 |
海女小屋の傾くままに曼珠沙華 |
小山 真紀子 |
髪冷ゆるまで踊りたり旅の地に |
庄司 牧子 |
駅弁に仕切りの多き小春かな |
姫野 とし子 |
インターネット賞
日の暮れの名も無き駅の菊黄色 |
二神 重則 |
ロンドンのパブに雷神来たる秋 |
倉沢 桃子 |
野猿出て総立ちとなる十三夜 |
佐甲 実枝子 |
黛 まどか賞
部門賞
【幼児 -最優秀賞-】
【幼児 -優秀賞-】
えにっきをはみだしているなつのうみ |
まつい かずま |
とうちゃんにかたぐるまされりんごがり |
岩野 友里子 |
雪だるまいっしょに電車のれたらなあ |
西村 直和 |
【小学生 -最優秀賞-】
【小学生 -優秀賞-】
ぼくの手が星空にぎる隠岐の夏 |
清水 一力 |
時雨竹刀打込む旅試合 |
忠縄 龍哉 |
秋の旅大仏様の鼻の穴 |
永野 孝政 |
【中学生 -最優秀賞-】
【中学生 -優秀賞-】
菜の花やだんだん海が狭くなる |
石川 育美 |
み仏も半眼で聞く春の雨 |
萬納寺 瞳子 |
ストーリーの佳境に宿の秋灯下 |
藤津 潤也 |
【高校生 -最優秀賞-】
【高校生 -優秀賞-】
春の蝶花の番地の訪ね人 |
山崎 知美 |
旅人の行く手を阻む花菖蒲 |
阪本 隆秀 |
忘れたき事置いて來し秋燈台 |
清水 菜穂子 |
奨励賞
【学研賞】
いつまでもわたしみおくるなつのふじ |
浜田 結惟 |
石舞台はるか大和の秋を聞く |
岡﨑 直哉 |
法隆寺塔の先から冬に入る |
加藤 理絵 |
会釈して秋の旅路の僧の袈裟 |
内田 和典 |
遠足の子にまぎれつつ伊勢参り |
佐野 香織 |
【PHP賞】
手荷物を小さくまとめ春の旅 |
岡田 早苗 |
一本のさくらに会いに旅に出る |
阪 貞子 |
おじぎして遠足が去る芭蕉句碑 |
広沢 一岐 |
駅を出てからの道づれ雪女郎 |
佐橋 やえ子 |
霜帽子のぞけば牡丹大胆に |
長谷川 みのる |
【女性セブン賞】
道問へば返る涼しき京言葉 |
近藤 久美子 |
道問ひし人も旅人鵙猛る |
浅川 喜久子 |
校庭へ寄せる白波十三夜 |
臼井 千鶴 |
燃へ尽きぬ間に逢ひに行く紅葉山 |
座間 友子 |
村中に柿をつるして旅に出る |
曽根原 百合子 |
【NHK出版賞】
伊勢志摩の旅を終りて杉を植う |
居附 稲聲 |
つばめみな帰り駅長だけの駅 |
曽我部 義治 |
新涼の君に逢ふためだけの旅 |
押谷 隆 |
鳥何か落としてゆきぬ秋の暮れ |
木村 七二 |
明日旅に出る荷が二つ冬座敷 |
奥山 弘道 |
【とらばーゆ賞】
波が来て波の音来る春岬 |
金田 千佳 |
スニーカーの紐を直して土筆摘み |
中井 亜子 |
口紅の色決めかねて春の旅 |
西村 恵理子 |
携帯の届かぬ場所で夕涼み |
土橋 眞弓 |
神様はいない木の実を拾いけり |
加川 峰子 |