伊勢の町を歩くとな、家の軒先(のきさき)に「蘇民将来子孫家門(そみんしょうらいしそんかもん)」と書いた札がしめなわに吊(つ)り下がっているのを見たことがあるやろ。その門符(もんぷ)にはこんな話があるんや。
むかし、牛頭天王(こずてんのう)がお嫁(よめ)さんをさがしに竜宮城(りゅうぐうじょう)へ出かけられた時のことや。歩きながら、泊(と)めてもらうところを探(さが)しておるとな、森の中にたいそう立派(りっぱ)な一軒(けん)の家を見つけたんや。その家に住むのはこのあたりで一番の長者、巨旦(こたん)やった。牛頭天王はさっそく、戸をたたいて頼んだそうや。
「旅のものですが、疲(つか)れ果(は)てて歩くことができません。一晩(ばん)だけ泊めていただけませぬか」
巨旦は、貧(まず)しそうな身なりをした牛頭天王を見て、
「うちは貧しいから泊められへん」
「そのようなことをおっしゃらずに、一晩だけでも」
と何度も頼んだにも関(かか)わらず、とうとう泊めたらへんだんや。
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蘇民将来伝説(そみんしょうらいでんせつ)
二見町だけでなく、牛頭天王(ごずてんのう)を祀(まつ)る津島神社(愛知県津島市)や島根県佐田町にも同様の伝説がある。
門符
しめなわにつける木礼
牛頭天王
京都祇園社(八坂神社)の祭神。疫病(えきびょう)よけの神として信仰(しんこう)されている。数多い民話の伝承では、牛頭天王はスサノオノミコトと同じ人物であると言われている。
スサノオノミコト(須佐之男命)
日本神話の神。イザナギノミコトとイザナミノミコトの子。アマテラスオオミカミの弟。
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