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二見町 そみんしょうらい
蘇民将来
伊勢周辺の家々では、「蘇民将来子孫家門」と書かれた木札を付けた注連縄を見かけます。
この風習は、心やさしい蘇民将来のお話からはじまったものだと言われています。

お話を聞く

 伊勢の町を歩くとな、家の軒先(のきさき)に「蘇民将来子孫家門(そみんしょうらいしそんかもん)」と書いた札がしめなわに吊(つ)り下がっているのを見たことがあるやろ。その門符(もんぷ)にはこんな話があるんや。
 むかし、牛頭天王(こずてんのう)がお嫁(よめ)さんをさがしに竜宮城(りゅうぐうじょう)へ出かけられた時のことや。歩きながら、泊(と)めてもらうところを探(さが)しておるとな、森の中にたいそう立派(りっぱ)な一軒(けん)の家を見つけたんや。その家に住むのはこのあたりで一番の長者、巨旦(こたん)やった。牛頭天王はさっそく、戸をたたいて頼んだそうや。
「旅のものですが、疲(つか)れ果(は)てて歩くことができません。一晩(ばん)だけ泊めていただけませぬか」
巨旦は、貧(まず)しそうな身なりをした牛頭天王を見て、
「うちは貧しいから泊められへん」
「そのようなことをおっしゃらずに、一晩だけでも」
と何度も頼んだにも関(かか)わらず、とうとう泊めたらへんだんや。
用語説明
蘇民将来伝説(そみんしょうらいでんせつ)
二見町だけでなく、牛頭天王(ごずてんのう)を祀(まつ)る津島神社(愛知県津島市)や島根県佐田町にも同様の伝説がある。

門符
しめなわにつける木礼

牛頭天王
京都祇園社(八坂神社)の祭神。疫病(えきびょう)よけの神として信仰(しんこう)されている。数多い民話の伝承では、牛頭天王はスサノオノミコトと同じ人物であると言われている。

スサノオノミコト(須佐之男命)
日本神話の神。イザナギノミコトとイザナミノミコトの子。アマテラスオオミカミの弟。



 牛頭天王は困(こま)りはて、ふるえながら今度は蘇民将来(そみんしょうらい)の家の戸をたたいた。わけを話すと、蘇民は
「それはそれは遠いところから大変やったなあ。わが家は見てのとおり汚(きたな)い家やけど、よかったら泊まってってください」
と快く招(まね)き、粟(あわ)を出して親切にもてなしたそうや。
 次の日、出発する前に牛頭天王は泊めてもらったお礼に、宝物(たからもの)の玉を蘇民に渡したんや。この玉(たま)はな、心のやさしい人が持つとお金がたまるものとされておった。
   



   
 その後、牛頭天王は竜宮城に着いてお嫁さんをもらい、八人の王子のお父さんになってな、八年ぐらいたったある日、自分の生まれた国に帰ることにしたんや。
 途中(とちゅう)、また蘇民の家に泊まると、心やさしい蘇民は長者(ちょうじゃ)になっておった。それをうらやましく思った巨旦は、牛頭天王を家に泊めようとしたんやけど、意地悪な性格は変わらんだもんでな、逆に次々と悪いことばっかりが起こったんや。
 一方、蘇民はいつまでも幸せに過ごしたんやと。
 牛頭天王という人はな、悪いことを追い払(はら)う神様やったんや。それからな、代々蘇民の家の人たちは、このとき牛頭天王が言われたように、「蘇民将来」と書いた木を身につけておったんや。それがお守りとなってな、幸せに暮(く)らしたと言われておるんじゃと。
 今でもこの辺の人はな、悪いことを追い払ってくれるお守りとして、この木の札を家の玄関口のしめなわに取り付けておるんや。
 
しめなわ



読み手:藤村 京子さん