むかしむかし、四の付く日ごとに立つ市がだんだん大きくなって、商(あきな)いをする人たちがここに住みついて町らしくなったころの四日市の話や。
反物(たんもの)の商いをしている久六(きゅうろく)の店に、身のたけ六尺(しゃく)もある若(わか)い大きな男が訪(たず)ねてきて、
「ごめんなして。わたしをこの店でつこうてくれんかな」
と、頼(たの)んだんやって。主人の久六は、
「わしんとこは、こんな小さな店やし、若い者をつこうたことがないんやでなあ」
と、いったんことわったけど、若い男も熱心でな。
「わしは、町へ出たことがないで、給金をもらえるような仕事はようせんかもわからんけど、一生懸命(いっしょうけんめい)働くんで、頼むわ」
久六はこん負けして、その男を使うことにしたんや。
ところが、それから三日、十日とたつうちに、不思議なことに久六の店に反物を買いにくる客が増えはじめてな。大男の商いぶりは評判がええし、反物の売り上げもぐんぐん増え、三年もたつと、久六の店は町でも評判の大きな店になっとった。
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ある日、久六は奥(おく)の座敷(ざしき)に大男を呼んでな。
「おまえが店に来てから、早いもんでもう三年も過ぎたんやなあ。おまえのおかげで店は大きくなったし、お客さんも富田や桑名の遠い方からも来てくれるようになった。そこで、わしら夫婦(ふうふ)と娘(むすめ)からの頼みなんやが、うちのむこになってこの店をついでくれんかなあ」
と頼んだんや。ところが、大男は、
「とんでもないことで。この店で働かせてほしいとお願いしたのは、このわたしです。それにわたしは、おじょうさんのむこになれるような男やないんで、どうか、いままでのように働かせてください」
と、ことわったんやって。大男の気持ちがかたいんで、久六もあきらめたんや。
その次の年の夏のこと。
むし暑うて寝(ね)ぐるしい夜ふけやった。久六は、あんまり暑いんで、縁(えん)さきで涼(すず)もうかと、縁がわづたいに大男のへやへ通りかかったんや。なんとなしに、ひょいと大男のへやを見ると、しょうじに大きな影(かげ)が映(うつ)っとってな。その奇怪(きっかい)な姿(すがた)に、久六の足は一歩も動けんようになってしもたんや。
その影は、首が胴(どう)から長くのびて、頭がゆらゆらと動いてな。しばらくすると、首がにゅーっとあんどんの方にのびて、あんどんの油をなめるんや。ぶきみに動く首の先にある頭は、よう見るとたしかに大男のものやった。 |
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あんまりのおそろしさに、久六は気をうしのうて、そのまま倒(たお)れてしもたんや。
あくる朝、目がさめた久六が、こわごわと大男のへやをのぞきこんだら、だれもおらんのだ。部屋のすみに、大男が着とった縞(しま)の着物が、きちんとたたんで置いてあるだけやった。その大男がどこへ行ってしもたんか、だれもわからなんだ。
今、四日市祭りで、縞の着物を着て、首を伸ばしたり縮(ちぢ)めたりしてねり歩く大入道はな、どこへ行ってしもたんかわからん大男の無事を祈(いの)ってつくられたのが始まりやったというこっちゃ。 |
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四日市祭りの大入道
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