勢和村は山が多て、緑がきれいで、ええとこや。
耳を澄(す)ましてみ、いろんな鳥が鳴(な)いとるのが聞こえるやろ。
ピチピチ、チクチク、いろんな声で鳴いとるけど、そのなかで「オトトコイ、オトトコイ」って鳴く鳥がおるんや。
この鳥は、ほととぎすっちゅうんやけど、この鳥には悲しい話があるんやに。
むかしむかしのことや。ここらへんにはほととぎすの兄弟がおった。
兄弟いうたら、ふつう、仲のええもんやけど、残念なことにこのほととぎすの兄弟はそうではなかったんや。
「おい、水をくんでこい」
「うん、わかった」
「何か、食べる物を持ってこい」
「うん、わかった」
「おまえは、おれの言うことを聞いておればええんや」
「うん、わかった」
という具合で、兄ほととぎすは弟ほととぎすをいつもいじめとった。
そやけど、心のよい弟は、兄がいくらいじめても「うん、わかった」と返事をして、にこにこしてな、文句も言わんと兄のために一生懸命(いっしょうけんめい)働いておったんや。
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ほととぎす
夏の到来を告げる代表的な渡り鳥。5月中旬ごろ渡来し、ほかの鳥の巣に卵をうみ、晩秋、南へ去る。高原地帯に多く、昼も夜も鳴く。
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食べる物でも兄はいじわるやった。弟に働かせておるくせに、自分はうまい方、多い方を食べとった。それでも、やさしい弟はにこにこしとった。
そんなくらしがつづいておったんやけど、ある時、兄ほととぎすは、
「あいつは、おれの見ておらんとこで、もっとうまい物を食うておるんと違うやろか」
と、弟ホトトギスを疑(うたが)いはじめたんや。 |
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「あいつは、おれにうまい方、多いほうをよこしてもにこにこしとる。きっとおれの見ておらんとこで、もっとうまい物を食うとるに違いない」
と思て、前にもましていじめるようになったんやけど、弟はそれでもにこにこしとったんで、ますます兄は弟を疑うようになっていったんや。
「何を食うておるのかな」「いつ、食うておるのやろ」
と、疑って疑ってしておるうちに、たまらんようになって、とうとう弟を殺してしもた。
死んだ弟の胃袋(いぶくろ)を見てみると、そこには貧しい食べ物しか入っておらへんかった。
「ああ、何ということをしてしもたんや」
兄は、後悔したんやけどすでに遅すぎた。
「ああ、弟よ、許してくれ」
嘆(なげ)き悲しんだ兄ほととぎすは、鳴きながら飛んでいってな、それからというもの
「オトトコイ、オトトコイ」
と鳴き続けるようになったそうな。 |
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