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三雲町 しちおきばば
質おき婆
昔、このあたりには、伊勢神宮へ向かう伊勢街道が通っていました。
ある時三人のおじいさんがお伊勢参りに出発して出逢ったのは……
ちょっとゆかいなお話です。

お話を聞く

 むかし、この村に九十を越(こ)えた三人の年寄りが寄って、あれやこれや話をしておってな、
「おたがい、この歳(とし)まで生きられたんは、何と言うてもめでたいことや。どうや、明日は三人そろて、お伊勢参りをしよやないか」
「そりゃええなあ」
 歳はとっても元気のええ三人やったもんで、話はすぐに決まったんや。
 次の日は、日の出ぞろいで弁当を腰(こし)に下げ、意気揚々(いきようよう)と出立(しゅったつ)したんさ。
 前川の碧川橋(あおかわばし)にさしかかったときや。橋の下から声がして、
「おいおい若い衆(わかいしゅう)、待たっしゃい」
と言う者があるやないか。いちばんの年寄りが下をのぞいて
「九十にもなる者に若い衆とは何事じゃ」
と言うと、
「おれは、この橋の下に住んどる鶴じゃ」
と言いおる。鶴は千年言うから、三人の歳を足してもとうていかなわへん。
「こりゃ、おそれいりました」
と、降参して、鶴もいっしょに連れていくことにしたんや。
用語説明



 しばらく歩いて六軒の三渡橋にさしかかった時や、またも橋の下から、
「おいおい若い衆、待たっしゃい」
と言う者があるやないか。今度はいちばん年上の鶴が
「この世に千年も住んどる者に若い衆と呼ぶのはだれじゃい」
と橋の下をのぞくと
「おれは、ここに住む亀じゃ」
と言いおる。亀は万年、これはかなわぬと、亀もいっしょに連れてゆくことにしたんや。
 船江に入ると、今度はある神社の中からまたもや
「おいおい若い衆、待たっしゃい」
と言う者がおる。亀は大変腹をたててな、
「万年も生き延びた者に、若い衆とは」
と言うと、
「わしは船江の八幡じゃ、八幡大明神じゃ」
 これは万どころやない、上には上があるものやなあとおどろいて、八幡様を加えて六人が連れだって松坂へ向こうたそうな。
 
六軒
三雲町六軒

三渡橋
三雲町と松阪市の境を流れる三渡川(みわたりがわ)にかかる橋。三渡川は別名「泪川(涙川)」と呼ばれた。中世のころ渡し口が三ケ所あったため、三渡の名が付けられたという。
 
船江
松阪市船江町



   
 川井町まで来ると、またもや後ろから
「おいおい若い衆」
と呼ぶ声がするんで、みながふりかえって見ると、そこにおったのは年のころなら六十くらいの婆さんや。船江の八幡さんは大変怒ってな、
「船江の八幡をつかまえて若い衆とは何事じゃ」
とどなると、その婆さん、
「わしは、川井町裏に住んどる質おく婆じゃ」
 八万なんぞ問題にならん、七億というわけなんさ。
 
川井町
松阪市川井町

質おく(質おき)
質入れをすること
 



読み手:玉置 美智子さん