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久居市 ゆずりだに
湯出谷
村人が、いつも鶴や鹿がやってくる川の中のある場所に行ってみると…
榊原温泉の近くを流れる榊原川の中にも、昔は温泉が湧き出ていたそうです。

お話を聞く

 久居の温泉というと榊原。けれど昔は湯出谷にも出ていました。
 ちょうど、藤田学園の近くです。そこには、こんな話がのこっています。

 あんなあ、昔のことやけど、一色のお百姓(ひゃくしょう)さんが、田んぼの仕事に行ってな、一休みしとったら、ひょっこり鹿(しか)が山から下りてきたんやて。
 のっそりと畑の横を歩いてな、そうっと川へ入っていった。そしてな、川の真ん中にじーっと立っとんのやわ。
お百姓さんは何をしとんのかなあと思っとった、そうしたらな、次の日もきて、おんなじように川の中につかっとる。
「おかしな鹿やなあ。この寒いのに川遊びかいなあ」
 お百姓さんは、首をひねっとった。

用語説明
榊原
榊原温泉のこと。その湯のすばらしさが枕草子第百十七段にも登場している古い歴史がある温泉。



 ところがな、しばらくしてまた田んぼで仕事をしとると、今度はつるが飛んできた。
「つるかぁ、めずらしいなあ」
 そう思って見ておると、つるはぎこちのう、川に舞い降りた。降りたとこは、鹿がつかっとったんと同じとこや。
「なんやろなあ」
 お百姓さんは、つるのすることをじっと見ておった。
 つるは、川の真ん中でばしゃばしゃと羽根を広げとる。
 それからはな、お百姓さんは、つるがくるとどこへ降りるのか、何をすんのかと気を付けて見とった。やっぱりな、つるはいっつも決まったとこに降りて、おんなじことをするんやわ。
   



   
「いったい、何をしとんのやろ」
 変に思うてな、お百姓さんは、そこへ行ってみたんや。
「ここらへんやと思たけどな」
 冷たい川の中を歩いてつるがおったところまでくると、なんやちょっと水がぬくいような気がしてな、それににおいもするんや。
「こりゃ、温泉のにおいや」
 水をすくって飲んでみたら、やっぱり温泉や。
「鹿やつるは、この温泉で傷を治しとったんか」
 お百姓さんは感心したそうや。それにしても、鹿やつるはなんで温泉やてわかったんやろか不思議やなあ。
   



読み手:水谷 てつ子さん