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白山町 はらごもりふどうみょうおう
腹ごもり不動明王
白山町の西光寺には、かの有名な弘法大師が作ったと
いわれる不動明王像が伝えられています。
この不動明王が腹ごもり不動明王と呼ばれるのには、こんなわけがあるのです。

お話を聞く

 ずうっと昔から、家城(いえき)にこんな民謡が伝えられとるのを知っとるか。

親が若(わこ)うて 子が年寄りじゃ
何のいんがで できたやら

 子どもは母親のお腹(なか)に宿るものやろ。そやから親の方が年をとっとるのがあたりまえや。この歌はな、親の生まれる前に子どもが生まれたと言う、まことに不思議な話なんや。
 子が親より年寄りで親が子より若いと言うこの話は、南家城の西光寺(さいこうじ)にある仏様のことや。
 今から千二、三百年も前っちゅうから、えらい昔やな。
 この家城の里に一人の旅の坊(ぼう)さんがふらりとやって来はった。それで村の家をたずねてな、一夜の宿を求めたんやて。
「こんな所でよろしかったら、どうぞどうぞ」
 家城の人は、親切に坊さんの世話をしたんや。

用語説明
家城
白山町家城

南家城
白山町南家城

西光寺
真言宗の寺。



次の日の朝、坊さんは、背中(せなか)に負(お)ぶっておった仏像を取り出して、世話をしてくれた宿の主に言うたんやと。
「これは、お守りとしてわしが作った仏像です。
ご親切にしていただいたお礼に差し上げましょう」
 そう言うと、旅の坊さんはすぐに立ち去りなされた。
「お待ちくだされ。どこのどなたさまでしょう」
 主は、すぐに坊さんのあとを追いかけて表へとびだしたんやが、坊さんの姿(すがた)はふっと消えてどこにも見つけることができへんだ。
 主が家にもどって、もろた仏像をよう見ると、それは、不動明王(ふどうみょうおう)っちゅう仏さんで、えらいりっぱなお姿をしておるやないか。
「もったいないことや、ありがたいことや」
と、大事に大事にお祀(まつ)りすることにしたそうな。
 



   
 この旅の坊さんの話がひろまってな、後になってこのお人は、空海(くうかい)言うて、弘法大師(こうぼうだいし)とも呼(よ)ばれとる、えらいお坊さんやということがわかったんや。
 宿の主も、家城の人も、いっそうありがたがって仏像を大事にしたんやて。
 そのうち、たくさんの人からお布施(ふせ)が集まってな、そのお金で西光寺が立てられたんや。
 それから三百年もしたやろか。家城の里にある高僧(こうそう)がこられて、あの仏像をごらんになってな、
「なんとりっぱなお不動様や。このままむき出しにしておいてはもったいない」
と、こう言われて、大きな仏像を作って、そのお腹の中に納(おさ)めて祀ることになったんや。
 そやもんで、西光寺の仏像さんは腹(はら)ごもり不動明王と呼ばれるようになったわけさ。

親が若こうて 子が年寄りじゃ

と歌われるのは、腹の中の不動明王様が千二、三百年も前にできて、外側の仏像様が後からできたから、いうわけや。
 それにな、昔から西光寺の不動明王様があるもんで家城には雷(かみなり)が落ちへんと言われとる。
 今でも不動明王様は、西光寺においでる。そやけど、ありがたい仏像様やから、ご開帳いうてそのお姿を見ることができるんは、二十年に一度なんやで。

 
弘法大師
平安初期の僧で、真言宗の開祖である空海のこと。

不動明王

提供・白山町教育委員会



読み手:酒井 巧さん