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みえの文化びと詳細

地域 伊勢・志摩地域
名前 塩本幸子(パールアーティストSACHIKO)

ご本人画像
80号の大きな作品を前にする塩本幸子さん

プロフィール  塩本幸子さんは、国内的にも世界的にも珍しい、「本物の真珠を使った絵画アート作品」を制作するアーティストです。墨で描かれたモノクロの下絵に砕いた真珠を貼り付け、輝きを加えた作品を多数制作してきました。

 きっかけは、塩本さんが、一人のインドネシア人画家の作品に出会ったことでした。画家の名前はkuncit(クンチ)さんといいます。
 インドネシアのバリ島には、竹の筆で絵を描く伝統的な技法があります。クンチさんは、その中でも珍しい、竹の筆で墨絵を描く絵師です。その技法で墨絵を描く絵師は、クンチさんを含めて、今は数人しかいないそうです。
 クンチさんの独特の作風が、塩本さんに強烈なイメージを与えました。それは「クンチさんの絵に真珠の輝きを加えたい」というものでした。早速、クンチさんと交渉し、快い承諾を得て、アート制作をはじめました。クンチさんの作品と、本物の真珠の美しさとが最も際立つ方法を、塩本さんは模索しました。
 塩本さんとクンチさんの打ち合わせには、スマートフォンのSNSアプリを使います。塩本さんがメッセージ機能に簡単なインドネシア語を書き込んでイメージを伝え、クンチさんがデッサンを画像送信機能で送ります。そのやりとりを繰り返してイメージが固まると、クンチさんが下絵を制作して日本に送り、塩本さんが真珠アートに仕上げるのです。
 伝統的な作画法と昔ながらの天然素材とが、現代のインターネットを通じて融合し、国境を越えたコラボ芸術が生まれました。

 経緯、素材、発想において、他に類例を探すことが困難なコラボ美術が、「Sachiko&kuncit」の名義で、国内よりも国外で紹介されています。

・日本の美を世界中に紹介するスペインの国際美術書籍「アートメゾンインターナショナル」で、塩本さんの作品が大きくスペースを割いて扱われ、志摩の真珠の美しさに注目する評が付されました。
・2017〜2019年に、A.M.S.C.(国際美術評論家選考委員会)スペイン本部芸術家会員に認定されました。
・英国王立美術家協会RBAの特別名誉会員になりました。
・モナコ公国主催芸術祭に2度出展しました。
・国連欧州本部で開催された世界の平和を祈念する国際平和美術展など、多数の国際美術展に出展し、また多数の書籍にて紹介されています。
・起源がルイ14世治世下の1667年に遡る、フランスの国際公募展「ルサロン」で2年連続入選し、2019年には同展主催のフランス芸術家協会会員に認定されました。
(以上の記述は、ご本人提供資料を確認の上、それに基づき編集したものです。)


 このように、活動範囲が世界にまたがる塩本さんですが、今も志摩で制作を続けています。


記事  塩本幸子さんが真珠を使ったアートを制作しようと思ったのは、志摩の真珠の美しさを多くの人に知ってもらうためでした。とくに、世界中の人に日本の真珠の美しさをわかってほしいと思っています。作品を海外に積極的に発信しているのもそのためです。

 塩本さんのお母様は、志摩の真珠養殖の大変腕の良い技術者でした。出張技術指導に訪れた長崎でお父様と出会い、お父様は三重に移り住んで真珠加工販売業を営むことになりました。そんな二人の間に生まれた塩本さんは、三重県志摩市でずっと真珠に囲まれて育ちました。
 54歳までお父様の跡を継いで真珠の仕事をしていました。業務で真珠製品のデザインを独学で行っていましたが、本格的に美術を学んだことはありません。しかし、真珠の美しさはよく知っていました。
 塩本さんは、事業から引退した今でも、故郷である志摩の真珠産業を振興し、地域を盛り上げたいという気持ちを持ち続けています。

 ところで、宝石としての真珠には、形の美しさも重要です。きれいな丸になっていない真珠は、宝飾品としては価値の低いものとなってしまいます。
 ただし、真珠が美しく輝くのは、貝に入れた核が体内で何層にもコーティングされ、表面の光の反射が複雑になるためです。そして、日本の真珠、とくに志摩の真珠が美しいのは、この貝によるコーティングが複雑であるがゆえです。
 このコーティングの複雑さは、日本に四季があることが大きく関係しています。他国の真珠産地は南方ゆえに水温や気候が一定であることが多いのに対して、日本の海では、季節ごとに水温等が大きく変化し、貝の体内での層の巻き方が一定になりません。それが幾季節、幾年と重なることで、表面の反射がどんどん複雑になっていくのです。
 その結果、日本とりわけ志摩の真珠は、全体の形が悪いものでも、表面の層の輝きに関しては高級品に引けを取らないことが多くあります。

 これまで、形が規格外の真珠は、単なる天然成分として、粉にされ薬等に加工されるなどしてきました。せっかくの表面の輝きは消されました。塩本さんは、それが惜しいと、ずっと考えていました。その思いが、クンチさんの絵に出会って形になったのです。
 塩本さんは、真珠を万力で割り、表面の層を剥がします。そして、下絵の個々の箇所に対して、様々な形にカットした真珠層を貼るか、カケラをさらにスリバチで粉に近づけてから貼るか、金箔などの真珠以外のものを付けるか、または何も付けずにクンチさんの線を残すか、塩本さんだけのセンスで探り考え、制作していきます。素材の真珠は、輝きを失わせないよう、一粒ひとつぶ丹念に割っていきます。

 真珠の輝きの意味を実感するには、実際に真珠を万力で割ってみると良いと、塩本さんは言います。確かに、輝きの強い真珠ほど弾力があり、万力で割るときに大きな力が必要でした。粒の大きさが変わらなくても層が多いので、輝きの鈍いものよりも密度が高くなっているからです。
 美しい真珠は粉にしてもキラキラ輝きます。それも、一種類ではなく多彩な色彩で輝きます。粉さえも多層的で、光を複雑に反射するからです。割っても美しい真珠など、世界でここにしかないと、塩本さんは力強く言います。

 塩本さんは「アート制作は真珠の輝きの意味をわかってもらうための手段です」と言い切ります。展示会や書籍で作品を紹介してもらうとき、塩本さんは、必ず、「志摩の真珠の層の美しさ」を説明する一文を入れてもらうそうです。
 塩本さんは、志摩の真珠の美しさを、日本中に、そして世界中に知ってほしいと願っています。

 そして、塩本さんが願っていることはもう一つあります。それは、志摩の真珠が採れる英虞(あご)湾の海の美しさを守ることです。
 今、世界中で気候変動や環境破壊が進んでいます。英虞湾にもその影が落ちています。豊かな気候と自然が生み出した多層的な真珠の美しさが、このままでは失われてしまうかもしれないと、塩本さんは危惧しています。志摩の真珠産業を守るためにも、英虞湾の海を守ることが必要だと考えています。
 塩本さんが真珠の美しさを皆に示すのは、それも真珠の表面の層の美しさを際立たせる表現を選ぶのは、その美しさを作る自然を守りたいという気持ちが、人々の心の中に生まれてほしいと願っているからでもあります。


制作風景
美しい下絵に、形は整っていないけれど素晴らしい色の真珠を、ひとかけらずつ乗せていく地道な制作過程
アトリエと作品
アトリエと作品(壁には海外での評価の証)
問い合わせ先 050-5328-2008
(携帯電話への転送)
e-mail contactprom@pearlart.jp
ホームページ 公式サイト
取材機関 三重県環境生活部
文化振興課
〒514−8570
三重県津市広明町13番地
TEL 059−224−2176
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登録日 令和02年2月12日

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