みえの文化びと検索詳細

陶芸家 三代目・加賀瑞山

項目 内容
地域 北勢地域
名前 陶芸家 三代目・加賀瑞山
プロフィール  加賀瑞山(かがずいざん)さんは、昭和38年に地元桑名市の県立高校を卒業した後、祖父である初代・加賀瑞山さんに作陶を学び、桑名の萬古焼の伝統を受け継ぐ数少ない陶芸家として、昭和59年に三代目・瑞山を襲名しました。そこから現在に至るまで、桑名市を拠点に意欲的に作陶を続けています。


 「萬古焼」は、江戸時代中期、沼波弄山(ぬなみろうざん)が桑名の地に窯を開いたことが始まりとされます。これがいわゆる「古萬古」です。そこから一度「萬古焼」の系譜が途絶えた後、桑名に生まれた森有節(もりゆうせつ)が、「萬古焼」を再興しました。こちらは「有節萬古」または「再興萬古」と呼ばれます。その「有節萬古」が広がる形で、三重県内外でそれぞれの地方の萬古焼が焼かれるようになりました。そのうち、桑名の地で「萬古焼」を受け継いだ人たちの陶芸が、現在「桑名萬古」と呼ばれるものです。初代・加賀瑞山さんは、その担い手の代表的な一人でした。

 初代・瑞山さんから陶芸を学んだ三代目・瑞山さんは、「萬古焼」の源流は現在の桑名市にあると話します。例えば、今日良く知られている急須や土鍋は、あくまで新しい時代に生まれた「萬古焼」であり、それに対して、「赤絵」などの「古萬古」の技法で、茶道に用いる数寄(すき)道具などを作ることが、発祥としての「萬古焼」に繋がるものであると言います。三代目・瑞山さんは、そんな源流を復元する「桑名萬古」の現在の継承者であると評価されています。


 瑞山さんの作陶では、土の選定から色付けまでを、すべて一人で行います。その中心にあるのが、茶道で「写し物」と呼ばれる陶器です。「写し物」とは、他の産地で生み出された古今の様式を真似る作品のことで、京焼でかつて盛んに作られました。瑞山さんは、その京焼の遺風を範とする「古萬古」の伝統技法に基づき作陶しています。「①朝鮮半島に淵源があるとされる、器を焼き上げたあとに絵を描いて再度焼く『赤絵』」、「②中国に端を発し、鉄分を微量に含む釉薬(ゆうやく)を用いた青い色が特徴の『青磁』」、「③ベトナムとの貿易で交趾(こうち)船によりもたらされた、透けるような鮮やかな発色が特徴の『交趾』」などの技法を駆使し、茶道具を中心に、洗練された陶技を示す優品を、瑞山さんは生みだしてきました。

 瑞山さんの作品を求める多くの声が全国から届き、平成3年の下関市をスタートとして、毎年のように全国各地で個展が開催されています。平成7年には「松坂屋本店」(当時の名称。現在は「松坂屋名古屋店」)、平成12年には「日本橋三越本店」と、日本有数の陶芸家のみが展示できる場所で個展を開催し、以降、3年ごとを目途に両会場で個展を開催し続けています。これは三重県の陶芸家として大変稀有な功績です。

 それらの活動の結果、昭和62年の桑名市無形文化財への認定に続き、平成13年には、その作陶における力量と、意欲的な創作活動、そして「桑名萬古」という陶芸の地域的特性などにより、三重県の工芸の発展に大きく寄与することが認められ、三重県指定無形文化財「桑名萬古(赤絵)」の技術保持者として認定されました。

 また、地元の桑名市では、「桑名市民展」の招待作家として作品を出品し、桑名市に作品を寄贈するなど、地域を代表する陶芸家として、同市の文化振興に尽力しています。さらに、「桑名市民展」の運営委員や審査員を務めるとともに、公民館の陶芸教室の講師として、昭和47年から長きにわたり市内で桑名萬古の制作を指導するなど、地域で後進の育成に取り組んできました。指導を受けた生徒の中からは、公募展で入選する実力者も誕生しています。職人としての作陶に集中し、個展を中心に活動することで、展覧会への出品は控えている瑞山さんですが、地元への恩返しとして、地域の展覧会には活発に参加しています。それらの功績が高く評価され、平成16年に桑名市文化功労者として表彰されました。

 このように積み重ねてきた活動と功績は本県の文化の向上に大きく貢献する極めて優れたものであるとして、令和5年度第23回三重県文化賞で文化大賞を受賞しました。


昭和19年(1944) 三重県桑名市に生まれる
昭和38年(1963) 祖父・初代加賀瑞山の薫陶を受ける
昭和59年(1984) 三代目・加賀瑞山を襲名
昭和62年(1987) 桑名市無形文化財として認定
平成 2年(1990) 桑名市立博物館にて展覧会を開催
平成 3年(1991) 下関市にて個展を開催、以降、日本各地で個展
平成 7年(1995) 松坂屋本店での個展を開催、以降、3年ごとを目途に開催
平成12年(2000) 日本橋三越本店での個展を開催、以降、3年ごとを目途に開催
平成13年(2001) 三重県指定無形文化財「桑名萬古(赤絵)」技術保持者
令和 5年 (2023) 瑞山窯(ずいざんがま)開窯(かいよう)110年記念式典
令和 6年 (2024) 第23回三重県文化賞にて文化大賞を受賞


記事  明治29年(1896)に生まれた初代・加賀瑞山さんが、「瑞山窯」を開窯したのは大正3年(1914)です。三代目・加賀瑞山さんは、平成15年(2003)に90周年、平成25年(2013)に100周年、そして令和5年(2023)に110年周年の記念式典を行いました。瑞山さんの父である二代目・瑞山さんが25歳の若さで亡くなっているため、初代を継いで窯を盛り立ててきたのは、実質的には、三代目・瑞山さんでした。

 10代の頃、瑞山さんは、洋画を学び、芸大進学の希望を持っていました。日本の伝統工芸とは異なり、世界全体に担い手が広がる絵画の世界で、自分の可能性を試したいと考えていました。しかし、瑞山さんは、19歳のときに、祖父から陶芸を学び始めました。その両肩には、桑名萬古という伝統工芸の継承と、家族の生活という大きな責任がのしかかっていました。

 瑞山さんは、「陶芸には、大きく二つの道がある」と話します。職人としての陶芸と、芸術としての陶芸です。その違いを瑞山さんは、「二度と引けないのが芸術の線で、何度でも同じ線を引くのが職人」と説明します。人と違うものを創り上げる芸術の方が、社会では高く評価されがちであるという葛藤を抱えながら、瑞山さんは、芸術としての陶芸ではなく、職人としての陶芸を究める道を選びました。

 初代・瑞山さんの兄であり、三代目・瑞山さんの大伯父にあたる加賀月華さんも、同じ陶芸家でした。月華さんは日展作家として活躍するなど、芸術志向が強い人でした。職人としての技術を追い求め、公募展などへの挑戦を控えてきた瑞山さんですが、月華さんの存在もあり、芸術としての陶芸を常に意識せざるを得ませんでした。瑞山さんが桑名萬古の伝統技術の継承者として高い評価を受ける今日、自らの選択に「これで良かった」と感じる一方で、「自分には二つの道があった」とも思っています。

 それでも、そのような葛藤の時期を経た今、瑞山さんは「技術は芸術を超える」という矜持を抱いています。極論すれば、過去の名作と全く同じものを作るのが伝統工芸の技術といえます。しかし、職人であっても、芸術性を備えた作品ができなければ、作家として評価されることはなく、職人として生活していくことも、陶芸の世界を維持していくこともままならないと思っています。そして、職人としての技術を突き詰めることで、芸術作品に負けない陶芸、それ自体が芸術といえる陶芸を作ることができると、瑞山さんは考えています。


 長く陶芸の世界に没頭してきた瑞山さんですが、最近になってようやく、作品制作の際に意識して芸術性を付与する、心の余裕のようなものが生まれてきたそうです。

 瑞山さんは、絵付けに合わせて日本画を、箱書きのために書を、お茶の道具を焼くために茶道を、花をいける器を焼くために華道をと、様々な道も併せて学んできました。萬古焼を含む多くの伝統工芸が分業により発展してきた中で、作陶の全ての工程を一人で行う瑞山さんは、その関心を関連する様々な分野にも広げてきました。さらには、風流の道に通じるものとして和歌を学び、和歌の素養となるものとして民俗学を学び、陶芸の奥にある精神世界に通じるものとして宗教学や哲学も学んでいます。当然のことながら、それぞれの道はそれぞれに奥深く、一つひとつを究めることなど到底不可能であると認識しつつも、それだからこそ楽しいと、瑞山さんは思っています。

 今、瑞山さんは、様々な面から、楽しんで陶芸に取り組めていると感じています。


 陶芸と、陶芸につながる様々な道や学問を追い求めている瑞山さんは、それらの究極には「自然」があるといいます。土と火で作る陶芸は、突き詰めれば自然と向き合うことそのものであると考えています。作品が完成するまでにひと月もふた月もかかる陶芸には、自然が師匠であり、自然から与えられる部分、自然によって作らされる部分があると感じています。瑞山さんが陶芸を通して関心を持つ哲学思想の中心には、自然への畏敬の念があります。

 初代・瑞山さんが最初に窯を開いた場所から窯を移転するとき、とても自然が豊かな場所を選びました。高台から桑名の街と山々を見下ろせる大変見晴らしのいい場所で、緑に囲まれています。三重県の中でもとくに雪が多い地域で、四季の魅力が強く感じられる場所です。

 瑞山さんは、この地で窯を焚きながら、自身の陶芸をさらに追い求めて、陶芸と桑名萬古の未来について考え続けています。年齢を重ねるにつれ、火の前での過酷な作業に辛さを感じることも多くなりましたが、自然からエネルギーをもらって、毎年窯に向かいます。

 令和7年(2025)9月17日(水)~22日(月)には、再び「松坂屋名古屋店」での個展が決定しています。


問い合わせ先
e-mail
ホームページ
取材機関 三重県 環境生活部 文化振興課
津市広明町13
TEL:059-224-2176
FAX:059-224-2408
登録日 2025/01/20