みえの文化びと検索詳細
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 地域 | 伊勢・志摩地域 |
| 名前 | 根付師・中川忠峰さん |
| プロフィール | 昭和22年に伊勢市に生まれた故・中川忠峰さんは、昭和53年に大工から「伊勢一刀彫」の師匠に弟子入りして木彫の道に進み、程なく「伊勢根付」を活動の中心に据えて、全くの独学で根付制作を始めました。日本橋高島屋や西武百貨店池袋本店での根付彫刻展に出品するなど、伊勢根付を全国にアピールするとともに、米国「根付ソサエティ」誌での紹介、大英博物館への出品、ロサンゼルス・カウンティ美術館への出品など、海外からも高く評価されています。 その技術の高さや活動の功績から、「国際根付彫刻会」会長をはじめ、「伊勢志摩木彫会」会長、「伊勢の匠会」会長、「伊勢市美術展覧会運営委員会」副委員長、木彫根付唯一の公募展である「高山市木彫根付公募展」審査委員長等、数々の団体の要職を歴任してきました。 後継者の育成にも力を入れてきました。各地の教室における生徒はのべ250人を超え、現在活動する伊勢根付職人は、ほぼ全員が忠峰さんの弟子です。 三重県は「伊勢の根付」を「三重県指定伝統工芸品」に指定しています。そして、その高度な技術・技法を保持し、伝統産業の振興や伝統工芸品の次世代への継承に寄与する「三重県伝統工芸士」として、忠峰さんを「伊勢の根付」の伝統工芸士に認定しました。 また、地域の文化振興の活動にも熱心に取り組み、地域の活性化に貢献してきました。例えば、毎年夏休みに「おかげ横丁」で子ども向けの体験会を催すなど、地元に密着した活動を多く行っています。とくに注目すべきは「まちかど博物館」の活動です。三重県内の「まちかど博物館」発祥の地である伊勢で、「伊勢まちかど博物館」に立ち上げ当初から参加し、後に「伊勢まちかど博物館運営委員会」会長にも就任しました。 忠峰さんのこうした活動と功績が高く評価され、令和6年度に第24回三重県文化賞で文化大賞を受賞しました。しかし、表彰式を直前に控えた令和7年5月、忠峰さんはお亡くなりになりました。 同賞受賞者表彰式では、出席を楽しみにしていた忠峰さんに代わり、忠峰さんの作品を身に着けた孫の中川杏春(あんず)さんが、知事から表彰状を受け取りました。 <略歴> 1947(昭和22)年 伊勢に生まれる。本名俊夫 1978(昭和53)年 大工職人から木彫の道に入る(伊勢一刀彫りの中本忠道氏に師事) 1980(昭和55)年 師匠につかず独学で根付の制作を始める 伊勢志摩木彫会入会 「海女」伊勢市美術展・伊勢市議長賞('81'82'83'84'87'90に入賞) 1984(昭和59)年 日本根付彫刻会入会 1986(昭和61)年 米国「根付ソサイエティ」誌に作品紹介 1988(昭和63)年 山田正義著「現代根付」誌に作品紹介 1993(平成5)年 「伊勢根付彫刻館」開館。ザ・伊勢講まちかど博物館認定 1994(平成6)年 大英博物館「現代根付彫刻展」 米国ロサンゼルス・カウンティ美術館「現代根付彫刻展」出展 伊勢市朝熊山麗JAPAN EXPO「まつり博'94」展示 1995(平成7)年 「根付たくみとしゃれ」荒井浩之編 (淡交社)に紹介 1996(平成8)年 高円宮同妃両殿下と共に、伊勢根付彫刻館において鑑賞懇親会を持つ 1997(平成9)年 米国カリフォルニア州バワーズ美術館「現代根付彫刻展」出展 「第1回根付学の世界展」(三越横浜店)出展 1998(平成10)年 「第1回伊勢現代根付彫刻展」(近鉄百貨店阿部野店)出展 静岡県三嶋大社宝物殿落成記念現代根付展に出展 1999(平成11)年 伊勢の匠会2代目会長に就任 2003(平成15)年 たばこと塩の博物館「現代根付展」に出品 伊勢志摩木彫会4代目会長に就任 2004(平成16)年 国際根付彫刻会3代目会長に就任 2005(平成17)年 米国サンフランシスコで開催の国際根付ソサエティ世界大会に出席 2006(平成18)年 NPO法人五十鈴塾「根付作りに挑戦!」講師 2008(平成20)年 第7回三重県文化賞 文化功労賞 多気町彫刻会(根付)講師 2009(平成21)年 『木で彫る根付入門「匠に学ぶ粋とぬくもり」』(日貿出版社)出版 2011(平成23)年 平成22年度 財団法人伝統的工芸品産業功労者褒章 2013(平成25)年 伊勢市美術展覧会運営委員を務める 2014(平成26)年 「高円宮家根付コレクション」「伊勢の根付展」同時開催 (菰野町パラミタミュージアム) 2016(平成28)年 「伊勢市美術展覧会運営委員」の副委員長に就任 高山市木彫根付公募展・審査委員 「伊勢まちかど博物館」会長に就任 みえ文化芸術祭・工芸部門「すばらしきみえ賞」 2025(令和7)年 三重県伝統工芸士に認定 第24回三重県文化賞 文化大賞 永眠(享年78歳) |
| 記事 | 根付は、煙草入れや印籠(携帯薬入れ)などを腰に下げるために、紐の端に付ける留め具です。誰もがポケットのない着物を着ていた江戸時代に、携帯品を帯に引っ掛ける小物として、様々な意匠をこらし彫られる根付が大流行しました。中でも伊勢根付は、全国から参拝客が訪れた伊勢で、お土産としてさかんに作られました。 中川忠峰さんは、着物を着る機会が激減し伊勢根付が衰退した時代に、伝統的な意匠を現代に再現しながら、斬新なデザインを次々に編み出すとともに、多くの弟子を育成し、伊勢根付を伝統工芸として復活させ、「伊勢根付の中興の祖」と呼ばれています。 とても大きな存在だった忠峰さん亡き後、伊勢根付の火を消さないために、何ができるかを考え、歩き始めている人たちがいます。 孫・中川杏春さんのお話。 ************* 祖父・忠峰は、仕事に対して非常に真摯で、妥協を許さない人でした。生前の祖父を「温厚な方だった」と語ってくださる方も多いので、家庭での姿とは少し違った一面を皆様に見せていたのだと思います。幼い頃から祖父のそばにいることが多かった私は、厳しく接されることがあっても、その背中に安心感を覚え、自然と祖父のもとに寄り添っていました。多くを語らない祖父でしたが、静かに見守ってくれていた存在だったと感じています。 祖父には朝の散歩の習慣があり、小学生の頃はよく一緒に歩きました。道端の草花や、耳に入る鳥の声について教えてくれたことを覚えています。根付の題材にもなる自然のものに対して、祖父は深い知識と観察眼を持っており、その姿に尊敬の念を抱いていました。また、からくりや知恵の輪といった仕組みのあるものを好み、そうした興味は作品づくりにも反映されています。「からくり根付」をはじめ、見る人が思わず立ち止まるような遊び心のある表現は、祖父らしい発想の表れだと感じています。 ************* 忠峰さんは工房を「伊勢根付彫刻館」と名付け、自身の作品や制作工程などを「まちかど博物館」として公開していました。杏春さんは、忠峰さんの遺言で、同館の管理を受け継ぎました。 伊勢を代表する文化でありながら、伊勢根付専門の美術館・資料館が伊勢にはなく、地元に根付が残らない現状を憂いている杏春さんは、「伊勢根付彫刻館」を伊勢根付の全てがある場所にしたいと考えています。忠峰さんの作品や他の人の作った根付を、鑑賞できて、触れて、購入できる場所に、そして、根付のことを学べて、制作を体験し作るきっかけにできる場所にしたいと考えています。 かつて忠峰さんを慕う多くの人が集まる場所だった「伊勢根付彫刻館」、いつも誰かがいたこの場所の賑やかさを取り戻すことも、杏春さんの目標の一つです。 弟子・梶浦明日香さんのお話。 ************* 初めてお会いした第一印象は、朗らかで温かい「ポカポカした人」というものでした。「師匠の工房にはいろいろな人が根付を習いに来るのですが、中にはお茶を飲みに来るだけの人もいました。海外の人、近所の人、「ネギが採れた」と持ってくる人などもいました。師匠はとにかく「来る者は拒まず」という人で、仕事を中断して世間話をしていました。迷惑がるどころか、「最近あの人が来ない」と気になって電話したりするんです。 厳し過ぎも甘過ぎもせず、「絵に描いたような良い師匠」でした。例えば、師匠自身には理解できないことを弟子が「やりたい」と言ったときでも、自身は反対である旨を明確にした上で、「やりたいことをやればいい」とそれ以上の反対はしないんです。その上で、弟子が真剣に望む限り、師匠は自身の持つ技術を全て教えてくれました。ここでも「来る者は拒まず」の精神でした。ただし、弟子が質問して初めて教えます。弟子が目の前で彫っていて、「それでは失敗する」と分かっていても、聞かれるまでは教えません。「失敗することで学ぶことがある」と常に言っていました。経験的に「聞く耳をもって初めて身に付く」と実感していることから、「教えるのを我慢している」と話していました。 ************* 梶浦さんは、自身の根付制作を追求するとともに、NHKキャスターという前職で培った発信力などを活かして、伊勢根付と様々な伝統工芸を全体として盛り上げていく活動を続けています。また、「伊勢根付を国指定伝統的工芸品にする」という運動にも携わっています。伊勢根付に対する忠峰さんの姿勢を胸に、どうすれば伊勢根付という伝統工芸が発展していくか、梶浦さんは積極的に動いています。 |
| 問い合わせ先 | 伊勢根付彫刻館 080-5833-9880 |
| isenetsuke.chokokukan@gmail.com | |
| ホームページ | 伊勢根付彫刻館・公式Facebook |
| 取材機関 | 三重県 環境生活部 文化振興課 津市広明町13 TEL:059-224-2176 FAX:059-224-2408 |
| 登録日 | 2025/12/24 |