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平成24年05月29日

三重の文化

第63回みえ県展 審査評

日本画部門審査評    

審査の手順は、前年と同樣、まず全作品(42点)を数点ずつ並べて一覧することから始められた。これは、鑑別を行なう際に全作品を全て壁面に並べることが不可能なので、全体のレベル、雰囲気、傾向を把握することを目的としていた。なお、審査員は三名で構成されている。

その後の実際の審査は、一点ずつ審査員の前に作品を置き、挙手による獲得票数によってグル-プに区分した。その結果、3票は9作品、2票は22作品、1票は5作品、0票は6作品となった。展示可能入選作品が28作品であるので、協議の結果、1票、0票作品は鑑別とし、3票は入選、2票獲得作品を再投票することによって調整することとした。

その結果による2票作品7点、1票作品11点を入選とし、0票の4作品を鑑別とした。以上の結果、入選数は27となるので、鑑別作より1点を復活させ、28点の入選作が決定されることとなった。

最優秀賞に輝いた宗座香織の「slave of this way」は、初出品での獲得である。孔雀の大胆な構図、それは意表をつくといっても良いだろう。優秀賞の高橋弘子の「春がきた」は、亀、蕗の薹、土筆などを描き、抒情性、詩情に溢れた好もしい一作、他の優秀賞の北島修の「晩秋」は、晩秋の林を丁寧に描写している。結果的に雰囲気の異なる三作品が選ばれたのは、次回に向けて良き発信、励みとなるのではなかろうか。

出品作品の全般的な感想を述べると、題材は花鳥画(静物画)、風景画、人物画と三部門が揃っていたが、抽象画は一点もなかった。また、水墨画、これに墨彩画も含めて良いが、大変少ない。前回は一点であったから微増といえるが、やはり寂しいのひと言につきよう。水墨画は、高い峰のようなものである。困難ではあるが、一年を懸けて挑戦して欲しいと思う。

                                                     日本画部門審査主任 川口 直宜


洋画部門審査評  

入賞の作品はどれもレベルが高く、絵の主題や技法も変化に富んでいて見ごたえのある作品である。総じて丁寧に描きこまれることによって充実した表現を発揮している。

最優秀賞の前野知恵子の「気配」は、暗い森の中の光に照らされた空間を浮かび上がらせているが、白と黒の諧調が絵の魅力を充分に発揮している。抽象画として見ても力のある作品である。岡田文化財団賞の濱口翔の「Bifrost-虹」は、点描などさまざまな技法によって異なる素地の装飾性豊かな画面を作り上げ、メルヘン的でありながらどこか不穏な空気を漂わせる作品となっている。優秀賞の二井澄子の「鎮魂歌」は、暗い背景の中から浮かび上がる箪笥の引き出しや周囲の空間から顔を覗かせる仮面や人形など異形のモノたちが不思議なオーラを発散している。メキシコのマリア・イスキエルドを思い出させる主題だが、日本的な土俗性を漂わせている。同じく優秀賞の川上建次の「誰がシマウマを喰うのか」は、エミール・ノルデやカレル・アッペルを思い出させる表現主義的で自由奔放な筆使いが魅力的な作品である。三重県町村会長賞の坂口八重子の「水渦」は、激しく渦巻く水流と異形の生き物がダイナミックに躍動する色彩の乱舞を見せている。中日新聞社賞の剣山利人の「泡」は画面いっぱいに増殖する色彩の断片が美しい。デジタル的な表現にも通じる軽みが今日的である。すばらしきみえ賞の辻幸三の「大台ケ原」は青と緑の点描が画面を埋め尽くしているが、その抽象的な画面にもかかわらず自然の息吹が感じられる作品である。自然の恵み賞の小牧郁子の「海鳴り」は水中の魚貝と泳ぐ女性の姿を暗い赤と青の色彩の対照の中にうまくまとめている。for your Dream 賞の野田ヒロオの「鎮魂」は神宿る自然の神々しさを植物と水によって清らかな画面に表現している

                                                 洋画部門審査主任 山脇 一夫 


彫刻部門審査評 

彫刻部門の出品総数は20点で、審査の結果12点が入選となった。このうち第一次審査で、審査員3人が一致して入選となったものが8点で、それらが受賞作品となった。最優秀賞を受賞した栗山絵美子氏の「夜が恋しい」は、牛をモティーフとしたもので、彫刻としての確かな骨格をもち、写実を基本として細部までよく行き届いた表現がされていた。さらに胸像のように立ったかたちに表したことで、そこに単なる牛の彫刻というにとどまらない、人間のイメージが重ねあわされたような表現となっているところも審査員の間で高く評価された。その他の受賞作品は、過去に受賞歴のある作者によるものがほとんどで、手慣れた堅実な表現ではあるものの、いささか新鮮さに乏しく、それぞれ得意とする素材やスタイルのなかであっても、新たな試みや挑戦が望まれるところであった。そのなかで岡田文化財団賞(新人奨励)を受賞した「今までの自分をぶっ壊したい」の作者、田中美樹氏は17歳の高校生で、段ボールを素材に、粗削りではあるものの、若者らしい感覚と思い切った表現に好感が持てた。この作品以外にも、入選作のなかには若い人たちの作品が何点か含まれており、いささか沈滞気味の彫刻部門に新鮮な風を吹き込んでいた。

彫刻部門の出品は、このところ20点台で推移しているが、全体としては減少傾向で将来が危ぶまれる状況にように感じている。彫刻の制作そのもの、そして県展への出品には、他部門以上に、さまざまな困難があるとはいえ、もう少し出品数が増え活気が出てくることを願っている。

                                                      彫刻部門審査主任 村田 眞宏


工芸部門審査評 

前回30点以上も減少した出品数が今回は10点ほど回復し、ほっと一息というところである。もちろん前回同様、作品の質はそれなりに保たれていることも確かである。

それを証するのが受賞作である。特に最優秀賞の多田眞弓「共鳴」は鍛金による平面作品で、様々な花模様を円形の構図の中に散らしたもので、大胆な構図と銀色一色のモノトーンの色感が文字通り共鳴し、素晴らしい効果を発している。また優勝賞(三重県議会議長賞)の森安八恵「水辺の情景」は、型紙彫刻技術を応用した模様づくりによって水辺の草花や鳥の群れを表している。その情景を様々なサイズのパネル仕立てにして散らしものである。あたかも細かいカット映像が連続しているようで、それがかえって印象深く、効果的である。黒に赤を混ぜたこともそれを一層際立たせている。優秀賞(三重県教育委員会長賞)は轆轤のリズムの爽快な力強い形が特徴的である。

紗藤ほ乃「冥王の花嫁~乙女座~」は、布を使い、織でも染でもない、レリーフ状に集積して立体にする仕事である。どろどろになりそうなテーマ、技法をすっきりときれいにまとめた力量は評価される。

廣山三千代「雪の華」(中日新聞社賞)、林源之助「桜拭漆巻紙香盆」(すばらしきみえ賞)、後藤正博「焼締大壷」(自然の恵み賞)はそれぞれ長年の研鑽が結実した作品である。

Uyoride Waka「tumikasane~Life」(岡田文化財団賞)は文字通り正方形の陶板の中央に円形の穴をうがち、心棒に入れて積み重ねたものである。新人奨励賞である同賞にふさわしく、若々しいエネルギーに満ちている。さらに土の構築のパワーを身につけていけばよりスケールの大きな表現につながるであろう。

大内茂生「かや葺の里 花生け」(for your Dream賞)は不思議なパワーに満ちている。籠型のボディーに和洋両様の民家が描かれ、上に一対の民家型の蓋が付き、中に落としが込められている。ボディーの正面は大きく湾曲した局面を作り出し、そこに陶の小さな部品を張り付け洋風なロッジのような家を作り出している。形、民家の様式、技法、すべてがバラバラに混在している。しかしそれが乱雑に陥らず、統合されて強い存在感を見せている。まさに作者の「Dream」なのである。

比較的年齢の高い方が多かったが、そのパワーたるや侮りがたし。参考にすべきである。

                                                工芸部門審査主任 金子 賢治 


 

写真部門審査評  

 今年の「みえ県展」も昨年に引き続き審査を担当させてもらいました。応募総数349点には、風景、人物、生活など多様な題材が含まれていて大変見応えのある審査となりました。審査は何度も繰り返し行い、3次審査を終えた時点で合計206点の入選作を選出しました。更に4次審査を経て最終候補作を20点に絞込み、その中から9点の各賞を決定いたしました。

 公開審査に集まった120名ほどのギャラリーが見守る中で白熱した審査となったのは、今回の応募作の質の高さを物語っていました。

 最終の賞に選ばれた9作品のうちモノクローム作品が3点入り、ここには「みえ県展」の特徴であるモノクロームを大切にしている伝統が見うけられました。

 審査を終えて目についたのは、スナップショットやドキュメンタリー写真が数多く見られ、基本的な写真のアプローチが健在であること。また、老人を捉えた写真が何点も見うけられましたが、人以外でも動物や昆虫などのポートレート写真に秀でた写真が多かったのも今回の特徴でした。

 更に、デジタル表現を駆使したアート的な写真も散見され、応募者の方々が現在の写真状況の中、新しい写真表現に取り組まれている姿勢も感じられました。

 最優秀賞竹内靜恵さんの「刻へ」は、一見リアルなモノクローム写真の中にも、日常の片隅にあるファンタジー世界を創出させていて、静かな演劇を目撃したような新鮮な表現になっています。優秀賞竹内孝豊さんの「孤独」は、タイトルに反してシリアスにならない軽みがあり、混沌とした部屋の中から明るい勇気が湧き出てくる不思議な作品です。同じく優秀賞西井寛一さんの「初夏の小判草」は、白バックに繊細な花と昆虫を単純に描き出していて、デジタル的なアート性を強く感じました。三重県市町会長賞米川アンジェリカさん「ハンド」は、自然の造形物を氷の中に閉じ込め、逆光の中に不思議なオブジェを出現させていて骨太な立体世界になっています。その他賞に入った作品にも、実に多様な方向性が示されていて「みえ県展」の更なる可能性を強く感じさせられました。

                                               写真部門審査主任 中里 和人


書部門審査評 

漢字113点、仮名15点、調和体26点、篆刻8点、計162点の出品数は昨年をやや下回るが、総体的に真摯に制作に立ち向かう姿勢が見受けられた。3名の審査員による厳正な審査の結果、入選数は99点と決定した。当落を決めた要因はといえば、一つには書の古典の習熟度によるものかと思われる。平素から、書の鑑賞や臨書などの着実な学習が、制作に当たっても影響が及ぶものといえる。もちろん創作には、書の伝統をそのまま継承し表現するのではなく、それらをバネに現代的な要素、あるいは制作者自身の美意識や創意工夫もまた、大きな評価につながるものといえる。書の伝統的な技法を学び、そこから抜け出て自らの精神性を表現することは容易なことではない。本展の特徴は漢字出品数は全体の約7割を占めて圧倒的に多く、それ以外の分野が漢字に押され気味だが、少数とはいえ、その中には捨て置けない優品も存在する。

上位にランクされた作品にはそれなりに挑戦ともいうべき意欲が看取される。上位三賞について通覧したい。最優秀作には重岡香蘭氏の「劉崧詩」が推挙された。茶地の染紙に7行に書した楷書作品は着実で力強く、書き出しから末尾まで一気貫通し、中国北魏の造像記の要素を取り入れつつ、自らの工夫により紙面全体に落ち着いた趣を醸し出した秀作である。優秀賞2点のうち、安休美鳳氏の「胡光謙の詩」3行の行草書は、緩急自在に筆を運び、抑揚のある線質とともに、文字の大小や墨の潤渇にも変化が見られ、行間に見事な余白をもたらした響きある優品である。一方、川端春蔦氏の「良寛詩」は漢字仮名交じりで4行書にまとめた作品で、長鋒を駆使した筆致に、漢字と仮名がほどよく調和し、とくに渇筆に独特の味わいが窺える。

                                              書部門審査主任  古谷 稔

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