第62回みえ県展 審査評
日本画部門審査評
今回の審査員数は、前回の5名から3名に変更となったが、その関係で作品への投票が広く散らばることはなかったと思う。すなわち、作品の出来栄えが優れているものと、そうでないものとの差がある程度はっきりしていたといえよう。
審査の方法は、先ず全作品(57点)を一覧することから始められた。これは、審査のために展示壁面に一度に並べられる作品数が限られているため、全体の平均的レベルが把握しにくいのを防ぐためであった。その結果が冒頭に述べた感想を抱かせることとなったのである。
審査手順は、一回に10余点ずつ壁面に並べ、挙手による投票としたが、これは、審査席後方で見守る出品者などの方々に責任の所在を明示するためであった。
作品全体の感想を述べるならば、風景画、花鳥画、人物画の三ジャンルがあり、純粋な抽象絵画はなかった。また、水墨画は一点のみであったのは、寂しい感を抱かせた。人物画制作の傾向が漸減してゆく思いがする中、今展出品数中に占める割合は高く、僕は、今後の努力に期待したい。
受賞作品の内、最優秀賞は風景画、優秀賞二点は、室内風景画、風景画と風景画関係が独占したが、他の賞では、花鳥画、人物画などが入っており、バランスのとれた受賞群となったと思う。
具体的な作品に一点ではあるが触れてみたい。最優秀賞に輝いた「冴える夜」であるが、夜の駅と線路構内を描いた作で、俯瞰視点からの構図が印象に残る。それとともに、今日的、流行的な映像的表現である点も同様である。だが何よりも、雨を明らかに示さない表現、雨の余情を感じさせる点が良かったであろう。
日本画部門審査主任 西田 俊英
洋画部門審査評
本年度の出品作品数は178点で、昨年よりも約20点ほど少なかった。最優秀賞の直青「オ役ニタテナクテ」は、画面いっぱいに描かれた山羊の大胆なモチーフが、細部の繊細な筆触と重なって、透明感のある作品となっている。まことに秀抜な絵画である。優秀賞の白髭松子「F・Gの記録」は、渋くおさえた群青と黒の色彩の美しい重厚な作品である。同じく優秀賞の田中隆男「禊」は、インパクトの強い顔の拡大描写で成功している。その色彩の組合せも渋く抑制されて見事である。三重県市長会長賞の井上明子「漂う」は、意表を突くモチーフの配置と空間の把握を特色とする。周囲に塗られた青が生きている。岡田文化財団賞の畑中文子「やまの詩」は、鮮烈で力強い色面構成を本領として、力量のある作品を実現した。中日新聞社賞の紀平照子「微風の刻」は、手馴れた筆さばきと、まとまりの良い形態を示す秀作である。すばらしきみえ賞の石垣佳子「アートカフェ」は、さわやかな画面構成を示す作品で、色彩、形態ともに動きのある興味深い作品となっている。自然の恵み賞の二井澄子「愛惜の間」は、素朴な写生を基盤としながらも、構図の面しろさと、独自の雰囲気を伝える絵画である。for your Dream賞の辻茂世「ドラム缶の宇宙Ⅶ」は、立体造型を平面に導入した斬新な画面による若々しい表現力を誇示する作品である。
以上、本年度の出品作品は、いつもながらの作風を見せる絵画の集積であるとはいえ、少しづつ目新しい作風が顔をのぞかせるさわやかな絵画群であるといえよう。
くり返すことになるが、最優秀賞の「オ役ニタテナクテ」は、みえ県展にとっての大きな成果のひとつだといっても良い力作であることを記しておきたい。
洋画部門審査主任 中谷 伸生
彫刻部門審査評
東日本大震災と原発放射能汚染による混乱の中での、みえ県展審査となった。作品を制作し、発表展示し、それを鑑賞することの意味や楽しさを新しく味わいながら審査をさせていただいた。
審査の中で、やはり強烈に迫ってきたのは最優秀賞平田茂氏の「dimension」である。しかし多くの注文がついた受賞であった。少し長くなるが全体の講評にもつながるので詳しく述べる。おそらく500㎏もあろう石塊を浮遊させたダイナミックな作品である。石塊が宙に浮く仕掛けは鉄柱とワイヤーが支えている。その床が鏡面なので、吊るされた石塊を覗き込むことになっている。異様な不安がよぎる。この制作意図は立体造形として興味深いのだが、その構成と完成密度はあまりにも説明的で粗野である。彫刻作品は実材の選択とその扱いが重要である。石塊を吊るすならば何を使ってどのように表現するかを細心の神経で取組んで欲しい。今回の他の出品作にもあまりにも直接的な表現や安易な仕上げによって、作者自身が作品の深まり妨げていると思われるものが多かった。すばらしきみえ賞「Crystal W.W.」は様々な素材を駆使しているが、とりわけ「水」を使っていながら、さほどの必然性がなく残念であった。また入選作「庭―人と双葉と木の葉」も過去の作品にみられた「木」の豊かな表情は薄れ、今後は持ち前の高い技法に推敲された感性で高いレベルに再挑戦を期待したい。裸体立像の3作品には、共通に顔と下肢部分に甘さが目立ち、審査中「これはトルソであればいい作品」といった皮肉な評が飛び交った。要するに最低あってもなくてもよいものか、さらにないほうがよいのか程度までの造形上の吟味はすべきだろう。
とはいえ、受賞作横田千明氏の二頭の「Animals」は漆の素材と突如現れる二頭のサイに妙な才覚を感じ、同質の期待は岡田文化財団賞の鈴木良治氏「咆哮」にも感じられ、三重県の底力も実感でき充実した審査を終えることができた。
彫刻部門審査主任 古川 秀昭
工芸部門審査評
毎年出品が100点を超えていたが、今回は67点と、30点以上も減少するということとなった。これは不況、震災という要素が積み重なって起きたことで、現在行われている公募展全般の傾向である。しかし幸いなことに、それが質の低下を意味していない。つまり一般的に公募展入選レベル以下の作品群が、おそらくだが、出品料節約のために出てこなくなっただけのことである。従ってどの公募展もかえって質が向上し、高いレベルの入落の戦いとなっているのをしばしば目にしている。
本展62回展も粒ぞろいの戦いとなった。受賞経験者の一層の大作、若い初受賞者の強靭な作品など、かなりレベルの高い審査となった。大賞は齊木健太郎「大地へ」。ガラスの鋳造によって、凍てついた大地が氷に削られたか、あるいは原始から凍てついたままの氷の大地の悠久の歴史か、そのパワーに満ちたシーンが見事に表されている。
優秀賞の林源之助「栃拭漆盛器」は永年の研鑽が見事な作品に結実した。同じく上田智子「椿」は押し絵によるもので、絞や型染の布に刺繍などを併用して椿文を表している。この作品の何よりの特徴は、文様スタイル、すなわち四角い枠組みで切り取った椿の部分カットのスタイル、綸子などの上質絹をセレクトした品格高い表現である。
染織では「咲いた、咲いた、咲いた。」の豊かなアイデアと色選択のセンス、橋本清美「二藍一花揃え」のピンク+青の抑制された色感がいい。
陶では樋本要一「作品―2011」の迫力の造形が群を抜いている。また榎勝之「陶 笑う」や大西俊治「音色舞い踊る三重奏」のユーモアやだじゃれ(?)のセンスは推奨される。
この展覧会は他にも色々な素材の分野が出品されていることも特徴である。山中さゆり「春風の詩」は七宝の色彩と銀色の組合わせがモダンである。また陶製人形、蒔絵作品などにも見るべきものがあった。
「質の高い戦い」とはひとえに工芸的表現の特質をうまく引き出したうえで成立するものである。その点を受賞作から看取してもらいたいものである。
工芸部門審査主任 金子 賢治
写真部門審査評
62回目の「みえ県展」は会期が大幅に変更され、審査員や賞の数も変わりました。新たな門出ということで、応募者の方たちも審査する側にも多少戸惑いがあったことは否定できません。にもかかわらず、作品の内容は充実しており、いつもにもましてレベルの高さを感じました。
「みえ県展」写真部門の特徴は、モノクローム作品の応募数が多く、しかも上位入賞者の比率が高いというところにあります。今回も上位作品9点のうち3点がモノクロのプリントでした。カラー写真が全盛の時代にあって、逆に白と黒のシンプルな画面、力強い表現力が目立ってくるということがあるのではないかと思います。今後もモノクローム写真を大事にしていってほしいものです。
とはいえ、デジタルカメラやプリンターの特質を活かした作品もだいぶ増えてきました。特に若い世代には、さらに意欲的、実験的な作品に取り組まれることを期待しています。二十代、三十代の応募者がもう少し増えてくると、全体的にもっと活性化してくるのではないでしょうか。
今回、最優秀賞を受賞したのは、棚村たか子さんの「第三子誕生」でした。東日本大震災の余波で重苦しい雰囲気に包まれているこの時期に、まさに新たな生命の誕生をとらえたこの作品が最優秀に選ばれたのはとても良かったと思います。優秀賞(県議会議長賞)の石山一夫さんの「二人の高齢者」も、ヒューマニスティックな視線を感じさせるいい作品でした。同じく優秀賞(教育委員会委員長賞)の綾野利勝さんの「北からの訪問者」は、羽ばたく鳥たちのいきいきとした瞬間を、クリアーな色彩で定着したネイチャー・フォトです。逆に三重県町村会長賞の早川美保さんの「怪鳥」は、やや不気味な鳥のシルエットを大胆に配置して、見る者の度肝を抜く作品に仕上げました。作品がひとつの傾向に偏らず、多彩に広がりつつあることに可能性を感じました。
写真部門審査主任 飯沢 耕太郎
書部門審査評
漢字124点、仮名27点、調和体22点、篆刻7点、計180点の出品であった。全体に気魄に富み、意欲的で、見ごたえのある作品が多かったという審査員各氏の印象であった。書の生命である線の鍛錬は、他の公募展への出品でも求められるところであり、その意味では、経験の豊かさが感じられ、総じて充実した制作がなされたものと思われる。当然のことながら、常に古典の学びを踏まえての努力がここかしこにうかがえた。また、表情の豊かな、夢のある作風は大いに好まれ、また、まじめに取り組む姿勢のうかがえる作品も好感し、入選作品は変化とバライティに富んだものとなった。一方、審査の過程で一部に指摘されたのは、普遍的な文字性を大切にすべきだ、とのことであった。字形のデフォルメに無理があってもそのままに済ませてしまうと、時として難読なものには鑑別の側からの賛意は得られにくい。いずれにしても、経験の豊かな方でも、奇を衒うような作品作りは慎み、品位を大切にして、幾たびも作しては眺め、修正し、また書く、の積み重ねが作品の価値につながるということだろう。
以下、上位三賞のコメントを述べる。
最優秀賞の下平小波氏の作品は橙色の料紙に墨量の変化がよく調和し、穏やかでさりげない筆さばきにより、佐藤春夫の抒情歌の世界をうまく表現できている。
優秀賞の清水翠芳氏の作品は、緩みない線とリズムにのせて、長い呼吸を最後まで途切れさせることなく書きとおした技量は素晴らしい。
また田中彩雪氏の作品は、文字の大小を生かし空間の美しさを作り出した秀作で、強い線の響きに満ちている。
書部門審査主任 菅生 攝堂