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平成22年05月18日

三重の文化

第61回みえ県展 審査評

大賞審査評 

 今回の各部門のレベルの高い最高賞の中から大賞1点を選ぶという、大変重い役割を十分に承知しながら審査員30人は慎重な審査投票を行った。
 日本画、洋画、彫刻、工芸、写真、書の6部門のそれぞれの審査主任がプレゼンテーション、すなわち推薦理由の説明を簡潔に行い、次いで審査員がじっくりと6点の作品を実見した。このあと、投票に移った訳である。
 その結果、工芸部門の森照美作「流精(るしょう)」が一番多くの票(7票)を集め、次いで日本画部門と写真部門の票が多かった。
 これは工芸の特色を生かした果敢な制作姿勢と、独自の面白い構成が審査員の目をひき支持を得たものと考える。
 候補作はそれぞれがいずれも甲乙つけがたい力作ぞろいであり、年々各部門の出品作の質が上っているように感じられるので、出品者の一層の努力を期待したい。

金原 宏行(大賞審査主任/日本画部門審査主任)


日本画部門審査評 

 今回、日本画部門の出品が昨年より若干多い68点ということもあって、力作が多く、入落を決定するのに時間をかけた。
またこの県展は公開審査制というユニークな方法を取っており、5人の審査員はともに幾分かは緊張したことと思われる。
 入落の決定に先だち、全作品を1点1点丁寧に見る供覧を行った。これによって全体の傾向を掴み、次いでランプ点灯による審査によって入選作28点を決定した。
 こうした経過から、人物、風景、花鳥など多様な作品群のなかから秀作を選ぶこととした。最優秀賞に輝いた「太陽の恵み」は、破綻のない描法で、長年の研鑽が実を結んだものである。作者は81歳とのことで、若々しい感性をこれからも生かしてもらいたいと考える。次点となった優秀賞(三重県議会議長賞)「移りゆく季(とき)」は、女性2人と背後の植物を組合せた構成で面白く、人物表現にもう一つ工夫があればと思われた。
 同じ優秀賞(三重県教育委員会委員長賞)「盛夏」はヒマワリを正面に据え、季節感が充溢した作品で、作者のヒマワリに対する慈しみを画面いっぱいに描き切ろうという情熱が伝わってくる努力作である。
 これら入賞作は、いずれも構図や色彩などに見所のあるものが多く甲乙つけがたいもので、全体的にレベルが高いといってよい。
 日本画は技術的にいささか難しいところがあり、習練を要するところもあるが、そうした技術面を克服して若い人にも挑戦してもらいたいと思う。

日本画部門審査主任 金原 宏行


洋画部門審査評 

 今年度の洋画部門の出品点数202点の中、入選点数は81点で、入選するのは比較的難しい状況であった。全体的に見て、作品の質は並んでいたが、その中で非常にインパクトのある画像をつくり出していたのが、最優秀賞に選ばれた増田典彦の「退屈な戦闘機」である。人物と航空機をクロ-ズアップする手法で、一瞥して目を惹く作品である。描写力もあり、構図をうまくまとめるあたりに、この画家の力量がある。優秀賞の坂口八重子「水渦」は達者な線描と色使いが評価された。優秀賞の中川吉史「追憶」は、手堅い具象の絵画で、人物構成に特色がある。岡田文化財団賞の二井澄子「時のかけらたち」は、まじめな態度でキャンバスに向き合った作品で、平凡に見える描写には意外な構図の魅力があふれている。中日新聞社賞の井上明子「漂う」は、いつもながらの斬新なモティーフの構成で一定の力を見せるベテランの絵画であった。町村会長賞の川口みどり「思い出」は、洗練された技術力を示す繊細な作品で、色彩も美しい。すばらしきみえ賞の中谷みどり「各駅停車で」は、渋く塗られた色面が独自の色調を奏でる作品である。For your Dream賞の早川拓馬「人権の駅」は、若々しくて少しユーモラスな作品である。
 過去10年間の出品作と比較してみると、今年度の入選作では、具象絵画の復権が見られ、抽象・具象の拮抗する内容になりつつある。そして、抽象的な絵画がややマンネリ化する中、具象絵画の方に新しい雰囲気が見られるような印象を受けた。これもまた時代の大きな変化と考えられるかもしれない。ベテラン作家の着実な活動が目立つようであるが、今後は、若い作家の台頭が望まれる。惜しくも入選を逃した作品の中には、きわめて誠実な絵画も多く、こうした作品が三重県展の底辺を支えているのかもしれない。

洋画部門審査主任 中谷 伸生


彫刻部門審査評 

 今年は28点の応募があり、その中から15点が選に入った。受賞作品については比較的簡単に決まったが、当確ぎりぎりの作品については、喧々諤々の議論が出、入選審査は午前中いっぱいかかってしまった。これはあるレベルの作品が集中しているということで、県展応募作品の質が正規分布をしていることを示している証拠である。このことは、公募展として、ある一定の評価と期待が確立しているということで、喜ばしい事であるが、一方では停滞を示しているともいえる。これは今後の課題として、重視しなければならない。
 受賞作については、さすがに頭ひとつ抜き出ているものを感じさせる優作が並んでいたが、特に「ずれーズレーZULE」は全員の一致で票が集まった。これはズレた二つの固まりがもつ強い存在感と、ステンレスの冷たい光沢と情熱的な赤の対比が効果的かつ印象的な作品で、強いメッセージ性も感じられた作品であった。
 ここで、全作品について講評を書く紙面がないが、目に付いた作品の断章をまとめてみたい。錆びた鉄棒に支えられた鋭い断面をもつ石が印象的な「黒い閃光」、垂直と方形、直線で構成され、つよい力を感じさせる「枕木と鉄の構成」、軽やかなリズム感と躍動感をもつ「リズム」、的確なデッサン力と強烈な色彩感をもつ「娘と猫」などが受賞作の中でも強い印象をもった作品である。
 惜しくも入賞を逸した作品の中にも奇妙な世界を造詣化した「A~」、木彫部に動かしがたい存在感を見せていた「明日天気になあれ」、ほのぼのとした雰囲気をもつ「仲良し一族」などの労作が印象に残る。
 最後に、選に漏れた作品の一般的傾向として、発想は豊かであるが、それが十分に「推敲」されていないことが気になった。発想はもちろん大事であるが、「鑽るがごとく」という言葉を大切に、作品を作り育て上げていく長い研鑽の過程を大切にしていただきたい。

彫刻部門審査主任 赤川 一博


工芸部門審査評 

 工芸分野における作品は多様化の傾向にありますが、最も重要なことは創り手の造形意志が強く込められた独創性のある作品でなければなりません。
 勿論、工芸作品は素材に伴う表現技術も大切ですが、その技術で何を創ろうとしているのか、コンセプトの定まっていない作品は優れた作品とは云えません。更に、三重県展であれば三重という風土に培われた三重固有の特色をもった作品を期待しつつ審査に当りました。
 第61回県展の搬入数は昨年と殆んど変らない101点で、その内訳は土地柄を反映してか陶磁器の出品が約60%を占めていました。
 その他、染織、木工、伊勢型紙などに注目すべき作品がありました。しかし、結果的に入選は会場スペースの関係上48点となり、入選率は50%に満たない厳選となりました。
 また、受賞作品については陶磁作品に力作が多く、その評価の対象となったわけです。
 6部門の最優秀賞作品の選抜合同審査会(大賞審査会)では工芸作品の「流精」(森照美作)が栄誉ある大賞に輝きました。
 この作品は、まさに今日の工芸の幅を如実に物語る異素材組合せ(コラボ)による、或る種祭器を想わす意欲作です。即ち、欅の皮を使った舟形状のフォルムは黒漆に覆われ、そこに6本の陶磁製の脚が取り付けられたものです。欅の表面には、金・銀箔が捺(お)され、その上に筒(つつ)描(が)きによる線描文様が施され、更に細部には釉薬のかかった陶片や素焼の断片が程よく象嵌されています。それは一見、ニューギニアの原住民が樹皮に描いた祈?(きとう)線描画を想わすものですが、工芸における技(わざ)の新しいあり方をさし示すものとして大いに評価したいものです。
 他の受賞作について批評する枚挙はありませんが、各受賞作いずれも創り手独自の個性に溢れた努力の跡が見受けられ、三重県工芸の力強いうねりを感ずるものでした。

工芸部門審査主任 中井 貞次


写真部門審査評  

 「みえ県展」も61回を迎え、そのレベルの高さには目を見張るものがあります。まず「みえ県展」写真部門の全体的な特徴について考えてみましょう。一つはモノクロームの作品が多いこと。これは伝統的に三重県の写真家たちが、モノクロームの撮影とプリントに情熱を傾けてきたことのあらわれです。上位入賞作品にも、素晴らしいモノクローム作品が二点入りました。カラー写真全盛の時代の中で、むしろこのユニークな伝統を守り続けていってほしいと思います。もう一つは花や風景写真(いわゆるネイチャー・フォト)が減少傾向にあり、子供や祖父母にカメラを向けた家族写真が増えていることです。まだ、上位入賞作品は少ないのですが、この不安定な時代状況の中で、家族の絆を写真を通じて確認しようとするファミリー・フォトは、これから先とても大事なジャンルになっていくでしょう。ぜひ新たな家族写真の形を探っていってほしいものです。
 さて、最優秀賞を受賞した嶋岡恭司「秋の陽」は、逆光気味に人物をシルエットでとらえた、テクニックに優れた作品です。両手と落ち葉の鮮やかな赤の色味が強く目に残ります。優秀賞(県議会議長賞)の堀木光一「永い夜」は、携帯電話を手にする若い女性という現代的なテーマを扱っています。画面構成がシャープで、はっと目を引く力強さがありました。同じく優秀賞(県教育委員会委員長賞)の今井貴雄「包装」は、驚きを誘う場面をストレートに捉えています。モノクロームの印画をややコントラストを上げて焼いたのも成功しました。
 他にも上位入賞作品だけでなく、入選作品にもなかなかいいものがたくさんありました。次回も力作が多数応募されることを心から期待しております。

写真部門審査主任 飯沢 耕太郎


書部門審査評 

 総出品数は205点(漢字127,仮名40,調和体30,篆刻8)で昨年に比べて12点減であった。
 作品は各部門共にレベルの高いものが揃っていて審査に長時間を要し苦労したが、壁面に対しての入選数が決められていて、ほんの紙一重で入選できなかったものもかなりあった。
 書作において創意と錬度は共に制作上の重要な要素であるが、よく「作品の優劣は練習量に比例する」と言われるように鑑賞の段階ではやはり古典作品を基盤とした錬度の高いものが要求される。作品全体を見て感じたことは、類型的な作品から個性的表現への脱皮をうかがえるものがある反面、師風、会派等の類型的な書風から脱皮しきれないものもかなりあった。芸術の道を志すことは終局のない習練への挑戦であるが、常に「守破離」の精神を意識し、自分の顔を表す個性豊かな作品を目指して制作に取りかかってほしいものである。書の美的要素としては、墨色の研究、字体の造形、線質の研究、リズム感、余白の活かし方等などが挙げられるが、こうしたものは短時間で出来るものでなく、長時間をかけて鍛錬に鍛錬を重ねた中から産み出されるものであり、それが格調高い書作品、個性豊かな作品になると信じる。作品の出品時期を見据えて少しでも早くから計画をたてて取り組むことが鑑賞者を魅了する格調高い作品を成しうる近道であろう。
 最優秀賞、山田精廉氏の作品は、明、清時代の行草を基盤に、凛とした線質で全体をまとめあげ、余白の活かし方も美しく格調高い作品となっている。
 優秀賞、竹内清泉氏の作品は呉昌碩の尺牘の書風を基本にした多字数作品で行間等の余白が美しく気迫のこもった線質は最後まで一貫した秀作である。
 優秀賞、足立美栄子氏の作品は、下り藤のちらしで余白も広く紙面の広がりを感じます。思いきりのよい線が爽やかで運筆の遅速、墨色の変化にも卓越しています。

書部門審査主任 稲垣 無得

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