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平成21年04月16日

三重の文化

第58回県展 審査評

大賞審査評

 大賞の選考にあたっては、各部門の最優秀作品の中から全審査員30名の投票によって選ばれた。各部門から選出された6点の作品を全員がよく見るとともに、それぞれの部門の審査主任により簡潔に説明され、各人1点を投票した。結果は書部門の「景龍の詩」が最高点を得たが、規定の過半数に達しなかったため、改めて大賞にふさわしいかどうかが審議され、結果は圧倒的な多数によって、大賞と決定された。
 この作品は、肉太な力強い線が、最初から最後まで一貫しており、書の技術はもちろんだが、高い精神性を感じさせる。するどい筆致や文字造型への工夫など、また、余白と墨の量の配分も心地よく、全体として大らかさと重量感を持った優れた作品となっている。
書部門は今回が初めての大賞受賞である。これからの一層の発展を期待したい。

白石和己(大賞審査主任/工芸部門審査主任)


日本画部門審査評

 公開審査ということで、数多くの鑑賞者が詰めかけてくれた中での審査であった。今年は昨年より出品数が少し減少したが、力量感あふれる作品が主流をなしており、その分いささか厳選といった感がした。
 入選作を見てみると、人物・風景・花鳥と様々な分野に及んでおり、変化に富んでいて見ごたえがある。真剣に作品に取り組む作者の姿勢が、より賢明に受け取られ、各自独特の技法で自分を表現している点には好感が持てた。
 その中でも、最優秀賞に輝いた、岸春美さんの「夜明け」は、都会のビルの前に人物を配した作品で、その組み合わせの構図が面白く、的確なデッサンの基に制作され、色調も作者自身の性格が表れているような奥深さを感じた秀作である。優秀賞に選ばれた、若松芙久子さんの「声よし鶏」は、3羽の鶏がうまく配置され、互いの鶏が何か話しているかのように見える。バックと融合させることにより、その存在感をうまく表現していた。また、同じく優秀賞の、川合和子さん「花に託して」は、レンガ造りの建物の前に、ひと束の花を配した作品だが、そこには何かをその建物に対する想いがあるのか、ひと束の花が置かれ、陽の光が見る人の目をその花に向けさせる、抒情あふれる秀作である。そして、他にも印象深い作品が数多くあったことを付け加えておきたい。
 公開審査に来られた方々にはお伝えしたのだが、充分なデッサンを基にして、素直にその対象物に対する感情を表現していけば、きっと新しい自分の発見に繋がることと思う。今後の皆さんの活躍に期待したい。

日本画部門審査主任 山﨑 隆夫


洋画部門審査評

 第1次審査で入選75点、受賞候補作品が31点選ばれた。受賞候補作品が31点も選ばれたということは、それだけ質の高い作品が多かったと言えるでしょう。その候補作品に対し、5人の審査員が7票の投票用紙で投票を行った結果、4票の作品が3点、3票の作品が2点、2票の作品が3点になり、2票の中から1点を受賞から外すことで、受賞作7点が決定した。
 最優秀になった北井五郎氏の作品はオブジェを用いて、その素材の美しさを最大限に引き出す空間構成が見事である。
 優秀賞(県議会議長賞)の小阪のり子氏の作品は躍動する生命の輝きをアンフォルメルな形の中に押し込んでいる力強い作品である。大胆さだけでなく、色彩を押えるということで画面の緊張感を高めていることもすばらしい。
 優秀賞(教育委員長賞)の百合智子氏の作品はスクエアのキャンバスに人物を配置した大胆な発想が見事で、周囲の空間を間のびさせず、強烈な色彩で色面の充実を図っている点、人物画を描く人に新しい構成の妙を示唆してくれたと言えるだろう。
 岡田文化財団賞の茂手木史氏の作品は、異形の形を積み重ねることで、不思議な空間を生み出している。色彩も深い色調でフォルムの持つ形体の面白さを強調している点、若い力を十分出し切った作品である。
 この他に、市長会長賞の北林かよ氏の作品は美しい色彩の輝きとその美しさを生かすひっかきのフォルムが大変ロマンチックな表情を持っている。中日新聞社賞はベテランにという条件を考慮して伊藤具治氏に決定。構成の楽しさとしっとりとした色彩がうまくマッチした作品である。
 自然の恵み賞の山田潔子氏は、点描という古い手法ながらじっくりと自然を見つめ、対象の光を巧みに捉えている点が評価された。
 以上のように見てくると、具象・抽象にかかわらず、真剣に取り組んだ作品が評価されたということで、制作態度が問われる展覧会になったと言えそうだ。

洋画部門審査主任 増井 克利


彫刻部門審査評

 彫刻部門は出品23点、入選が12点であった。全体としては、具象から抽象まで、素材もその造型も多種多彩なものであった。審査は、他部門に比べて出品点数が少なかったことものあり、一つ一つの作品について相互に意見を述べ合いながら、挙手によって入選作品を選抜していった。その後、改めて受賞候補を投票により選び各賞を決定した。最優秀賞の《阿・吽》は、「あ・うん」という文字を原型にとりながら、それを自由なかたちの造形として構成したもので、木材の質感を活かした確かな存在感を示す作品として高く評価された。優秀賞の《Inner Vision》は、全体のフォルムの美しさ、また各部の形態と仕上げも行き届いたもので、石による造形としての密度の高い作品であった。市長会長賞《リリィの海》は、水に飛び込む女性を、石を素材として適度にデフォルメしたかたちで表し、これに海を表す鉄板に着色したベースを配したもので、斬新なアイデアに好感をもつことができた。また中日新聞社賞《喝》は、長くステンレスによる造形を追求し続けてきたことを評価しての受賞であった。すばらしきみえ賞《あり続けるモノ》・岡田文化財団賞《+1℃》は、若い世代による新しい感覚と表現を示すものであった。
 今回の審査全体を通じて気になったことを述べておきたい。まず一つは、作品に付けられたタイトルと、作品そのものの造形との関係が観る者にとって曖昧に感じられる作品が目立ったということである。これは制作そのものが、作者の中で不明確なままに進められたことを物語っているようで、結果的に作品の完成度にも少なからず影響していると感じられた。次に、複数の立体を板状のベースなどに構成するものでは、その配置に緊張感のないものが目についたことが残念であった。もう少し、空間構成を追求する姿勢があれば、まったく評価の異なったであろう作品が幾つかあったことを指摘しておきたい。また作者自身によって付けられた台座についても、せっかくの彫刻本体の造形を弱くしてしまっているものがあった。今後の出品の参考としていただければ幸いである。

彫刻部門審査主任 古川 秀昭


工芸部門審査評

 今回の工芸部門の出品数は108点で、昨年とほぼ同じだった。その内47点が入選となった。さらにその中から7点の受賞作品が選ばれた。工芸は素材の持つ特色をどのように表現に結びつけるかということが最も重要である。そのためには技術が必要となる。また素材を用いて何が表現できるか、何を表現したいのかを明確にする必要がある。今回の出品作品の中に、写真や絵画を工芸に移しただけといったものがいくつか見られた。技術的にすぐれたものがあっただけに惜しまれる。また、作品をのせる台や敷物が、全く異質で、全体の雰囲気を壊しているものも何点かあった。こうした点にも注意していただきたい。
 最優秀賞「NAMI」は形に力強さを感じさせると同時に、技術的にも工夫がみられる作品である。口部や胴部に不規則な形状をつくり大きな動きの表現を示している。また、内側は白釉の上に青釉をかけて自然に出来る亀裂を生かし、外側は青釉の上に白釉を吹き付けて、柔らかな雰囲気にしている。最優秀賞の「月光と山と海」は伊勢型紙による作品である。桜島をテーマにしたもので、絵を描いた後、引き彫り技法で彫り抜いている。細かいがきっぱりとした線とスプレーによるぼかしがうまく融合して美しい。同じく優秀賞の「外踏轆鑪造欅拭漆花器」は欅の杢目の美しさ、すっきりとした形姿を見せる作品で、胴中央に造ったくびれが印象深い。
 ところで、工芸部門受賞作7点の内、6点が60~70歳代の人の制作だった。改めて出品作品の一部を調べても、60歳以上の人が圧倒的に多かった。会社を定年で辞めてから本格的に取り組まれるようになったのだと思う。技術的な面や、造形への取り組みに新鮮な感覚が表れており、大変結構なことだと思う一方、若い人たちの、もっと積極的な出品を期待したい。

工芸部門審査主任 白石 和己


写真部門審査評

 写真部門の審査を担当したのは、昨年に続いて2度目です。今回は応募作品数419点でしたが、審査の際のポイントに、テーマ性とその解釈と表現方法、そして三重の風土といったことを念頭に置き、一点一点見せて頂きました。
 審査員5人の総意による評価の結果、技術水準の高い見応えのある作品が選ばれたと思います。作品内容は、風景写真が少なく、スナップが多かったこと、なかでも特徴的だったのはモノクローム作品が応募全体の約3分の1を占め、入賞7点のうち4点あったことです。ただ気になることがいくつかありました。一つは、撮影の対象に子ども、祭りなどの行事、動物といった比較的似ている題材を扱っている点です。これは、応募者の側で過去の県展入賞、入選作品をイメージしてのことかもしれません。写真は自己表現の手段です。撮影者自身の発送で題材を決め、心に響いた光景を、写真独自の表現を駆使して捉えて欲しいと思います。もう一つは仕上げの問題です。カラーはあまり気になりませんでしたが、モノクロームは暗部が黒すぎて汚く感じました。白から黒に至る微妙な諧調を大切にして、モノクロームの特徴である美しい質感描写をしっかりやって欲しいです。
 今回の最優秀賞、鎌田憲次さんの「母の背」は、お母さんに二人の子どもがおんぶに抱っこの愛らしい姿を、絶妙なタイミングで捉えた力作。モノクロームであるため、表情と仕ぐさが鮮やかに描出されました。優秀賞(県議会議長賞)の千葉勇夫さんの「ひとやすみ」は、駐車場の隅のコンクリートの床で仮眠をとる男性を俯瞰で捉えた秀作。静かで構成力のある画面が印象的です。岡田文化財団賞の清水佑紀さんの「さと帰り」曾孫との対面なのか、おばあさんに生まれた子どもを見せている若い母親。ほほえましい情景の中に、世代の違いをさりげなく表現しているのが大変いいと思いました。
 来年も、撮影者の思いを託した作品を多数寄せられるよう願っています。

写真部門審査主任 英 伸三


書部門審査評

 書をこころざし、あるいは書作に生活の潤いを求めている諸氏は、入賞や入選にこだわらず、県展を足がかりに存在の証として作品発表を願いたいものだ。今回も出品点数が減少した中、篆刻の出品増、しかも秀作ぞろいであったのは喜ばしい。また常連の錬度の高い作品には目を見張るものがあり、敬意を表する。作風に発展や変化、熱気が求められるのもこの分野の常であるが、自負にあまんじ、あるいは師風に拘泥するような姿勢、さらには、誤字とおぼしき無理な造形など、自省の機会とされたい。
 最優秀賞の鈴木美芳氏は白の空間を鋭利に切り裂いていくような強く大きな動きで肉厚の線の魅力を遺憾なく発揮した会心の作で、独自の悠然とした世界を表出した。各部門の最優秀作から選ばれる「大賞」にも輝きまことに喜ばしい。優秀賞(県議会議長賞)坂野紅楓氏は、新しい境地で、ゆったりとした運筆の中に詩の味わいをかみしめるようにまた楽しみながら、調和体作品の目指す日本語の書表現の本質に正面からせまった。優秀賞(教育委員町賞)太田菊子氏は緻密な意図のもと、線状表現の可能性を求めて、あたかも心のおもむくまま、筆の動きに任せたように自由なリズムで空間を漂い、余白の美を極限まで迫った秀作。

書部門審査主任 菅生 攝堂

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