第24話  図書館訪問記

 さて、再開いたしました斎宮百話では、新しい企画として、三重県の文化施設の探訪記を載せることにいたしました。この春から、三重県の行政改革プロジェクトの一環として、県立四館(三重県立博物館・三重県立図書館・三重県立美術館・斎宮歴史博物館)活性化会議というものがはじまり、担当がおたがいのバックヤード・ツアーをしながら、理解を深めようということになったのです。それで、おのおののホームページに訪問記を載せようということになった次第。
 だから、図書館・博物館・美術館の訪問記が順を追って載ることになります。日頃見ることのない図書館の裏側を一挙紹介!?
 三重県立図書館は、津市の少し郊外の小高い丘にあります。津駅から車で5分くらい。歩くと15〜20分。道は二通りありますが、どっちも坂道。車のない人には、特に夏場はちとつらい。でも津駅から1時間に5〜6本バスも出ていますのでまずは安心。(ええ、この文を書くためにわざわざ歩いてきましたよ)
 さて、図書館は三重県総合文化センターの一角にあります。総合文化センターの建物の一つを、生涯学習センターと分け合って使っているのです。といっても、地下二階分の収蔵庫と、1階と2階の一部分は図書館なので、十分広いスペースです。
 ところで、読者にはこの図書館を利用された方も少なくないと思いますが、この2階に文学コーナーという展示室があることをご存知でしょうか。江戸時代の松尾芭蕉や本居宣長はもちろん、三重県生まれで活躍した文学者は、佐々木信綱、江戸川乱歩(この二人はパソコンの一発変換で出ました。やっぱり有名人!)をはじめ、数多くの人がいるし、三重県を舞台にした梶井基次郎「城のある町にて」、三島由起夫「潮騒」などの作品もあります。そうした作家や作品について展示している部屋で、展示はなかなか面白いのですが、ほとんど利用者がいないとか。展示室まで誘導する案内が少ないとか、生涯学習センターのブロックの中にポツンとあるので、回りの雰囲気事務室的で上がりにくいなど、参加者からは「非難轟々」、いや、さまざまな建設的意見が出されました。
 さて、皆さんは、図書館が一日にどれくらいの本を買っているかご存知ですか、なんと50冊くらいなんだそうです。なんでも図書館には、本の流通経路に乗って、毎日100冊位の新刊書が送られてきて、司書さんたち担当が選別して、要らない本を返すのだそうです。それで購入本が50冊。ともかく政治経済の本、物理学の研究書、おいしいパンの店に冠婚葬祭の礼儀、ともかくあらゆる本から、図書館利用者に役に立つ本を選別するのだそうです。それに寄贈本を合わせると一日の受け入れは100冊以上、一年間に3万7千冊くらいになるそうです。
 そうした本は新着図書に1週間並べられ、その後に本棚に並べられるものと地下の収蔵庫に行くものに分けられます。収蔵庫にあるものについても、パソコンで検索できるようになっているので、どこにどういう本があるのかはすぐに分かるようになっています。ただし、日曜日などは子供たちがパソコン端末を独占していて、なかなか調べられないのが問題とか。もっと端末を増やしてほしいというのが利用者の本音でしょうか。
 さて、収蔵庫は地下二階に分かれています。昇降できるのはエレベーター一機だけ、一機だけぇーっ!!停電になったらどうするの!「大丈夫、じつは非常階段もあるのです」とは、案内の司書さんのお言葉。やれやれ、とはいえ、一寸心配な話です。

 さて、総合文化センターをご存知の方は、あそこの中庭を思い出してください、割合広いスペースで、真中にモダンアート的な人のオブジェが立っています。その下がすっくり図書館の書庫なのです。だからかなり広く、一見すると、まだまだ余裕がありそう。でも、実はもともと1階構造だったのを区切って二階にしていて、これがいっぱいになったらもう増築スペースはないのだそうです。そこにありとあわゆる種類の本が整然と整理されていて、司書さんたちが、カウンターに持ち込まれる依頼に対して、ひっきりなしに出入りしています。司書は受付に座っているだけなので楽そう、という世間のイメージとはずいぶん違うんだなぁ、と見学者一同感心することしきり。地下には貴重書用の板張りの収蔵庫まであり、なかなか立派なものです。でも貴重書庫に土足で入るのはちょっとねぇ、とは参加した学芸員たちの実感。
 さて、約1時間かけて館内のバックヤード・ツアーをして、その後、オフサイト・ミーティングと題して、率直な意見交換が行われました。面白かったのをいくつか。
◎図書館は館員同士の会話が少ない。
 図書館では休みは月曜日のほか、土・日・火に分けて取るのだそうで、全員がそろうのが水曜日から金曜日までの三日間。しかも受付担当の人などは交互に休み時間を交互に取るし、受入れ・整理などいくつかの場所に分かれて仕事をしているので、全員が揃うことはほとんどない。それなりに大きな事務室があるのですが、ガランとしていて、お互いの会話が少ないのだそうです。お互いの仕事が専門化していて、なかなか人に質問しにくい、という声もあるとかないとか。
◎ 図書館としての個性はなにか
 今、三重県では、図書館のネットワーク化が進められています。県内の図書館から、県立図書館の本を借りられるし、その逆もできるように、どの図書館がどういう本を持っているかがわかるシステムをつくって、お客様に利用していただいています。だから一つの図書館で、全県で持っている図書を借りることができ、場合によっては、他県の図書館からも借りられるなんてとこともあるのです。その点ではすごく便利になっています。
 しかし、そこで問題になるのは、市町村の図書館と県の図書館の違いは何か、ということ。本の数が多いのは確かに多い。でもそれだけなら、市町村図書館が束になってかかって来れば、県の図書館はとても叶わないのです。今の図書館は県民ニーズにたしかによく応えようとしているけど、それは応急処置的な応え方ではないのか。その意味で、今の新刊受け入れ体制だけでは物足りない。なかなか手に入らない古書や専門書、高価な本など、利用率は少なくても、イザと言う時に役に立つ本を積極的に揃えるなど、県立館としての個性や存在意義を明確にする工夫が必要なのではないか。という議論もありました。
 これに対して図書館からは、司書が全ての分野の本に通じるのは無理で、本棚の整理担当など、一年ごとに替えるなどして、幅広い視野を持つようにしている、などという声が出され、またそれに対して、司書も専門性を深めるべきで、それが図書館の個性化にもつながるのではないか、という声もありました。
 こうした、一つの館でのオフサイト・ミーティングは全くはじめての試みで、何も拘束性があるものではありません。図書館からも三人の方が参加いただいたものの、偉いさんが入っていたわけではなく、即効性があるわけではもちろんありません。しかし、それぞれの館で仕事をする人間がお互いの仕事を知ることは、今後色々な意味で役に立つことが多いのでしょうね。
 ちなみに来月(8月)は斎宮です。どうなるかなー。

(主査兼学芸員 榎村寛之)

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