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第98話 第1回国勢調査記念絵はがき


第1回国勢調査で配布された絵はがき

第1回国勢調査で配布された絵はがき

第1回国勢調査記念絵はがき  統計調査の歴史しのぶ

国勢調査の第1回は90年前の今日、実施された。人口などの正確な把握、これは国が正しく機能していくうえで、欠かすことのできない情報だ。律令時代の昔から、為政者は戸籍を整備してきた。しかし、これは徴税や賦役を課すためで、国勢調査の目的とは異なっていた。1896年に国会で決議された「国勢調査ニ関スル決議」に「全国ノ情勢之ヲ掌上ニ見ルヲ得ベシ」とあることからも、違いを知ることができる。
既に19世紀から多くの国々で国勢調査が行われ、明治政府も「日本政表」や「日本国勢要覧」の編さんを1871年に始め、統計事業を本格化した。1897年に開催された第6回国際統計協会総会は、1900年に地球に暮らす人類がどのくらい存在するのかを氏名、年齢、性別、配偶者の有無、世帯数などの項目により世界的な規模で調査するとの提案があった。提案は日本にも大きな影響を与え、明治政府は国勢調査の実施を模索する。しかし、予算などの諸事情により遅延し、実際に実現したのは20年後のことだった。
今回、紹介する資料は第1回国勢調査の際に配布された記念絵はがきだ。国勢調査の実施は国家の一大事業だった。前例がない大規模な調査をしかも一斉に行うということで、広報にはかなり力を入れたようだ。絵はがきもその一環で、3種類の絵はがきと専用の袋からなる。最も多く使われた鐘をあしらったポスターを縮小したものには調査の趣旨のほか、日時や方法、調査項目が記されている。
そして、神武東征の神話を図案化したものには、神武天皇とその弓にとまる光り輝く八咫烏(やたがらす)が描かれている。発展途上の日本を国勢調査という八咫烏が導くという思いなのだろうか。また、写真にはないが、「国勢調査申告書」の縮小版のはがきには漢字にすべて仮名がふられていた。一方、専用の袋には「有りのままを申告すること」「一人も申告に漏れぬこと」と書かれている。
調査には、全国で約30万人の調査員が従事したといわれている。記念絵はがきを受け取ったのもその一人で、袋に墨書きされた「国勢調査委員 阪常治郎殿」は、旧河芸郡豊津村(現津市河芸町)で村議を務めた名士だ。
「国勢調査は、文明国の鏡」の標語の下、国家の威信をかけた大規模な事業が実行できたのは、単に大規模な広報を展開したからではない。そこには各地域を熟知し、信頼される人物の地道な活躍があったことも忘れてはならない。国勢調査委員の阪常治郎氏は、どんな思いでこの日を迎え、どのように大役を終えたのだろうか。
それから90年、国勢調査は今回で19回目を数える。日本の国勢はどのように変化しているだろうか。豊かであることに間違いはないだろうが、数字に表れない豊かさも増えているといいのだが。そこで、こういう特別な日だからこそ、しばし立ち止まり、国勢調査の歴史を振り返ってみる余裕も豊かさの一つかもしれない。      

(三重県立博物館 宇河雅之)

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