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第92話 カワラハンミョウの標本


カワラハンミョウの標本

カワラハンミョウの標本

カワラハンミョウの標本 海岸の絶滅危惧種

草むらや河川の土手などを歩くと、先へ先へと短い飛行を繰り返す昆虫を見かけることがある。まるで道を教えているように見えることから「ミチオシエ」などとも呼ばれるハンミョウの仲間だ。
今回はコウチュウ目ハンミョウ科の一種で、大きな河川の下流域の河原や海岸の砂浜など乾燥した広い砂地に生息するカワラハンミョウを紹介する。
写真の標本は県立博物館の所蔵で、00年9月に津市の白塚海岸で採集された。カワラハンミョウの成虫は7月下旬から9月にかけて出現する。体長14 〜17ミリで、上翅(じょうし)は褐色または濃緑色の地色に、不規則な白い斑紋が特徴的だ。大あごと複眼がよく発達し、細長い脚を備えている。日中に活動し、地表を素早く走り回り、驚いたりすると、短い飛行を繰り返す。肉食性で、ハエなどの昆虫類を補食する。また、夜間灯火にも飛来することもある。
幼虫はやや硬く締まった砂地に深さ50センチの縦穴を掘り、入り口付近で餌となる小昆虫などが近づくと捕える。振動に非常に敏感で、人の気配を感じると穴に潜リ込む。
カワラハンミョウは沖縄を除き、全国に分布するが、近年、砂浜の衰退、河川や海岸の改修などにより、全国的に激減している。現在、県内では、津市白塚町から同河芸町にかけての砂浜の海岸で確認されているだけだ。
このため、環境省のレッドデータブックでは絶滅の危険が増大している絶滅危惧(きぐ)U類に分類され、県レッドデータブック2005でも極めて絶滅の恐れのある絶滅危惧TA類に分類された。また、04年には特に保護する必要がある県指定希少野生動植物種に指定され、捕獲などを行うには届出が必要となった。
さて、現在、県中勢流域下水道事務所では、生息地の一つである津市の白塚海岸に隣接して、中勢沿岸流域下水道の下水処理場施設を建設する事業を進めている。また カワラハンミョウの調査などを含めた環境調査を継続的に実施し、有識者の意見などを取り入れながら、環境に配慮した事業を実施するように努めている。
一方、地元の人たちが中心となって結成された「白塚の浜を愛する会」では、清掃活動や外来植物の駆除活動を行い、海岸地域の環境保全に活発に取り組み、砂浜の草地化を防ぐための外来植物の駆除には、県内の専門家や社会人、大学生などが参加している。
カワラハンミョウの個体数の増減には年変動がある。前述の調査における白塚海岸に生息するカワラハンミョウの個体数の経年変化を見ると、03〜06年度にかけ個体数が減少した後、07年度に増加したが、その後の2年間は減少傾向にある。
今後とも地域が主体となり、県民やさまざまな分野の専門家、行政などが一体となって、砂浜海岸の豊かな環境の保全に向けた取り組みを継続する必要があろう。このような地域の取り組みへの支援も博物館の大きな役割といえる。

(三重県立博物館 今村隆一)

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