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第82話 オオクワガタ 


オオクワガタの標本(左オス、右メス)

オオクワガタの標本(左オス、右メス)

松阪市朝田町の田園風景

松阪市朝田町の田園風景

オオクワガタ 生息、人の生活とかかわり

オオクワガタのオスは昆虫の中でも鋭く湾曲したあごをもち、魅力を感じる人も多い。
オスの体長は30〜70ミリ、短いあごのメスは30〜45ミリ。幼虫はクヌギやヤナギなどの枯れた部分の内部を食べ、約3年間をかけて生育し、成虫はクヌギやヤナギなどの樹液をエサにして数年生きる。
国外では、朝鮮半島や中国に、国内では、北海道から九州にかけて分布する。県内では桑名市、松阪市、明和町などで生息が記録されている。写真のオオクワガタは、県立博物館所蔵の標本だ。
この個体が採集された松阪市東部の田園地帯はかつて、水田や用水路の周りにクヌギやエノキ、ヤナギなどが並木状に植裁され、刈り取った稲を干すために利用されてきた。これらの樹木は高さ2メートル程のところで刈り込まれ、切り口が時にこぶ状に肥大する。中でもクヌギは切り口が肥大すると、樹洞ができやすく、樹液がわき出してくることから、オオクワガタの成虫の住みかになり、また、枯れた部分は幼虫が生活する場所にもなる。このため、この地域のクヌギなどには多くのオオクワガタが見られた。
その他の地域では、薪(まき)や炭をとるために管理してきたクヌギやコナラを中心とする雑木林に生息する。このように、オオクワガタの生息環境は人の生活とかかわりが大きい。
 しかし、農業の機械化が進み、田園に植えられた樹木は必要性がなくなり、ほ場整備が進んで次々と伐採されてきた。また、生活様式が変わり、薪炭(しんたん)を生産してきた雑木林も管理しなくなったり、開発により伐採された。
 そのため、現在ではオオクワガタの姿は、ほとんど見ることができなくなり、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧(きぐ)種U類に、三重県レッドデータブック2005では、より減少率の高い絶滅危惧TBに分類され、絶滅に瀕(ひん)している。
 現在、松阪市の一部地域では、用水路沿いに植えられたクヌギなどがかろうじて残っている。この地域ではほ場整備の計画の中で、樹木が点在する景観をどうのように保全すべきか、地域の人たちとの県や有識者、県立博物館が現地調査を行い、協議が進められている。地域の特色ある景観を長く保全活用し、再びオオクワガタが集まる環境づくりが進むことを望みたい。  

(三重県立博物館 今村隆一)

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