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第58話 ハヤブサ


ハヤブサの標本(三重県立博物館所蔵)

ハヤブサの標本(三重県立博物館所蔵)

ハヤブサ 生息滅、環境悪化に警鐘

 鋭いクチバシとツメをもつタカ目ハヤブサ科の中型猛禽(もうきん)類ハヤブサは、飛翔(ひしょう)速度がとても速く、羽を半閉じにして急降下する時は時速300キロに達することもある、いま世界中の鳥類の中で最速とされている。
 主にヒヨドリ、ケリ、コガモなどの中型鳥類を餌とし、まれにネズミやウサギを捕らえる。狩りでは、下を飛んでいる獲物に向けて滑空しながら加速して接近し、スピードが十分高まった状態で上方から足で蹴落(けお)とす。 獲物は即死か失神状態となり、瞬時に足のツメで空中キャッチする。こんなダイナミックな狩りをするのはハヤブサだけだ。
 果敢な狩りと俊敏に飛ぶ姿から魅力のある鳥として愛され、その名は03年に打ち上げられた日本の小惑星探査機や、東京―鹿児島間を運行していた特急列車などの愛称として使われた。日本やヨーロッパでは古くから鷹狩りに用いられ、江戸時代に紀州や尾張徳川家の鷹場だった伊勢国では、ツルやヒバリが獲物だったという。
 ハヤブサは、ユーラシア、アフリカ、オーストラリア、南北アメリカ大陸など広く生息し、日本では北海道から九州、南西諸島、伊豆諸島などに分布している。県内では少数だが、ほぼ全域で確認されている。
 三重県立博物館収蔵のハヤブサの標本は、1994年7月1日に津市河芸町で採集されたものだ。体長42センチとカラスほどの大きさで、精悍(せいかん)な目つきと、頬にあるひげ状の黒斑が目立つ。体上面は灰黒色、体下面は白くて黒褐色の横斑がある。足の指には、湾曲し鋭く先がとがったツメを持っている。
 県内には、北海道や東北地域の個体が冬の寒さを避けるために移動してくるという。冬の間、県内の平地や河口、河川敷、湖沼で広く見られる。中には一年を通して県内に留まる個体がいて繁殖も行っており、鳥羽、尾鷲、熊野各市で確認されている。海岸や海に近い山地の断崖(だんがい)の岩棚で営巣することが多く、熊野灘沿岸の断崖地形は、格好の繁殖場所となっている。
 現在、ハヤブサは餌となる鳥類が集まっていた入江や干潟などの環境悪化により、生息数が減少している。三重県レッドデータブック2005や環境省のレッドデータブックで上位に記載され、絶滅が危惧(きぐ)されている。また、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の「国内希少野生動植物種」にも指定されている。
 自然界の食物連鎖の上で、ハヤブサは高次捕食者と位置づけられ、生物の多様性の高い豊かな自然を象徴する生きものとされている。ハヤブサが減少することは、自然環境の悪化を示す警鐘と言えよう。絶やすことのないように環境の保全が求められている。

(三重県立博物館 今村隆一)

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