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第28話 オオセンチコガネ


オオセンチコガネ

オオセンチコガネ

オオセンチコガネの地理的変異

オオセンチコガネの地理的変異

オオセンチコガネ 地域で異なる体の色

 今回紹介するオオセンチコガネは、体長約2センチの美しい金属光沢を持つ、コウチュウ目コガネムシ科の昆虫である。博物館には、三重県各地の産地の標本があり、地域変異を見ることができる。
 オオセンチコガネは、東シベリアや朝鮮半島など東アジアに分布し、日本では北海道・本州・四国・九州・対馬・屋久島に生息する。県内でも、低山地から山地にかけて広く見られるが、現在のところ布引山地では生息が記録されていない。
それに対して熊野灘沿岸の地域では、山が海に迫っているため海岸近くまでオオセンチコガネが見られる。
 このオオセンチコガネは、色が豊富で、緑色、ルリ色、赤色の3色に分けることができるが、まれに紫や茶褐色の個体も見られる。全国的には、緑色は近畿中央部に、ルリ色は紀伊半島に、赤色はその他の地域に多い。
 県内でも、地域によって異なる色彩の個体が見られる。養老山系から鈴鹿山系、伊賀市北部にかけては、滋賀県南部から京都府山科盆地南東部とともに近畿中央部の緑色の分布域にあたる。詳しく見ると、さらに御在所岳付近を境として、北側には赤色が濃い金赤緑色、南側では緑色の強い金緑色のものが多く見られる。
 一方、大台、大杉などの三峰・台高山系や志摩半島の山地にかけては、ルリ色が多い。このように、オオセンチコガネは、三重県を含む近畿地方において特に顕著な色彩変異を示している。同じ種でありながら、地域によって色が異なる理由については、まだはっきりとはわかっていない。
 オオセンチコガネの成虫は、春から晩秋まで活動し、主にニホンジカ・イノシシ・サルなどの獣糞(じゅうふん)をエサにしている。糞を好むことから、便所の古語である雪隠(せっちん)から「センチ」という和名が付けられている。ファーブルが研究したことで有名な、スカラベ(ふんころがし)と同じ仲間である。
 活動期には獣糞を捜して山林内を低空で飛び回る。晩夏から秋季に、個体数が増える。産卵期は秋で、糞の下に深い穴を掘り、その穴に糞を詰めて産卵し、生まれた幼虫はその糞を食べて成長する。動物の糞のほか、動物の死がいなどにも集まる。山林に落ちている糞や死がいを掃除をしてくれる昆虫なのである。きれいな金属色の輝きを持つオオセンチコガネであるが、意外な物を食べているのはおもしろい。
 山地にニホンジカが増えてきたため、エサとなるシカの糞が多くなり、オオセンチコガネは決して珍しい昆虫ではなくなってきている。山林の中で生活している美しいオオセンチコガネを捜して、5月から10月にかけて獣糞観察をするのも楽しいのではないだろうか。
                        

(三重県立博物館 今村隆一)

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