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第16話 長距離の旅をする蝶 アサギマダラ


アサギマダラ(メス)の標本=県立博物館所蔵

アサギマダラ(メス)の標本=県立博物館所蔵

長距離の旅をする蝶 アサギマダラ 優雅に舞い 台湾までも

 今回は、春と秋に日本列島を縦断し、長距離の旅をする蝶(ちょう)アサギマダラを紹介する。アサギマダラは、翅(はね)を広げた大きさが10センチほどで、アゲハチョウくらいの大きさである。翅に淡い浅葱色(あさぎいろ、薄い水色に近い色)のまだら模様があることから、この名前が付けられている。このまだら模様の部分には鱗粉(りんぷん、はねの模様を形づくる細かい粉)が少ないため、半透明に透き通っている。
 アサギマダラは、地上付近ではふわりふわりと優雅に舞うように飛ぶが、鳥などに捕食されることはほとんどない。それは体内に毒をもっているからである。
毒と言っても誤って食べた鳥が嘔吐(おうと)する程度で、人がさわっても問題はない。この毒は、幼虫の時に食べるガガイモ科のキジョランの葉や、成虫になって吸うキク科のヒヨドリバナの蜜に含まれるアルカロイドが体内に蓄積されたものとされている。
 アサギマダラは、全国各地で見ることができ、1980年代ごろから、集団で集まるアサギマダラの行方を調べる調査が毎年全国で行われている。
 その方法は、アサギマダラを捕獲して翅の浅葱色の部分に「日付・場所・捕獲者など」の記号を油性ペンで書き込んで放し、再び捕獲された情報を集約するマーキング調査である。こうした調査の結果、春には沖縄・台湾から本州・北海道へ北上することや、秋には北海道・本州から沖縄や台湾まで南下をすることが明らかになり、その移動距離が約2000キロを超えるものもあることが分かってきている。地上で優雅に飛ぶアサギマダラは、一度舞い上がると、ワシやタカのように翅をはばたかず、上昇気流にのっている姿から、うまく風に乗っていることで長距離移動を可能にしていると考えられる。
 県内では、9月から10月にかけて、鳥羽市の離島(神島・答志島・菅島)や熊野灘に面した峠(南伊勢町藤坂峠・熊野市札立(ふでたて)峠・御浜町横垣峠)などでヒヨドリバナやアザミの花などの蜜に集まる姿がしばしば見られる。三重県立博物館では、3年前から「アサギマダラのマーキング調査」を実施している。
 本年10月12日の鳥羽市答志島での調査では、9月23日に群馬県赤城山の赤城公園でマークされた個体を捕獲した。移動に要した日は、19日間である。また同じ日に答志島でマークした個体が、10月21日に高知県香南市で再捕獲されたとの報告があった。アサギマダラの長い旅を実証する貴重なデータである。
 また、アサギマダラは、県内でも幼虫や蛹(さなぎ)の状態で越冬していることも確認されている。すべてが長距離の移動を行うわけではないようである。
 アサギマダラの生態については、まだまだ分からないことも多いが、危険を冒してまで長距離移動する目的は、次世代の生活場所を広げるための行動だとも考えられ、厳しい自然界でたくましく生きている蝶とも言える。
 みなさんも、来年、長距離を飛翔するアサギマダラのマーキング調査に参加されてはいかがでしょうか。                   

(三重県立博物館  今村隆一)

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