物産へのこだわり

生産者の誇り


第三回内国勧業博覧会が開催された明治二三年(一八九〇)のことです。県内の数名が「松阪木綿」を出品して、見事に褒状を授かりました。ところが、褒状には松阪木綿ではなく「伊勢結城」と明記されていました。「 結城」とは、栃木・茨城県産綿織物の略称ですから、受賞者たちは「松阪木綿は昔からある名称で、全国に知れ渡っています。松阪木綿か松阪縞(しま)と書き換えていただきたい」と県に何度も願い出ました。かなりの日が過ぎて、博覧会事務局から回答がありましたが、それは、「伊勢の国で生産されたものだから伊勢結城であろうが、松阪木綿であろうが、それほど問題ではないのではないか」というものでした。

受賞者たちは、引き下がることなく、「伊勢には松阪木綿(松阪縞)と伊勢縞の二種がありますが、松阪木綿(縞)が上位で、伊勢縞はその次というように品質に違いがあります。これは商人ならよく知っていることです。また、松阪木綿は、れっきとした織物の名称で、伊勢結城では紛らわしく、褒状を店頭に掲げるにしても、勘違いする人がいるのではないかと心配です。松阪木綿(縞)と改めてくだされば、一層嬉しく思います」と反論し、再度、名称変更を求めました。このような受賞者たちの行動には、生産者の物産名に対する誇りを垣間見ることができます。

「松阪木綿」名を主張した「褒状御訂正願」
「松阪木綿」名を主張した「褒状御訂正願」
 
 

▲写真をクリックすると拡大した画像を表示します。

トップページへ戻る このページの先頭へ戻る