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津市納所遺跡から弥生時代の琴


 7月22日から、まつり博が始まりました。今日は、約2,200年ほど前の弥生時代に儀式で奏でられたと考えられる琴について、お話したいと思います。
 弥生時代の琴は、三重県内では津市の納所(のうそ)遺跡からのみ発掘されています。
 納所遺跡は、大正時代に郷土史家の鈴木敏雄氏によって発見された遺跡で、水田の下に永く眠っていました。ところが、昭和46年(1971)冬、圃場整備の工事に伴い中学生たちが土器等を採集し、さらに、その遺跡の上に津市街と近畿自動車道の津インターを結ぶ道路が建設されるということで、昭和48年から3か年にわたって、本格的な発掘調査が実施されることとなりました。
 調査の結果、多量の弥生土器や鍬・鋤などの木製農具に混ざって、あまりほかでは見られない扁平な板状のものが二点みつかりました。一つは長さが53センチの台形のもので、左右には三角形の孔がくり抜かれ、そのうちの二か所には樹皮が巻きついていました。弦又は弦をとめるものと考えられ、琴ではないかということになりました。音楽史の専門家たちも、これを見て、やはり6本の弦を持つ琴と推定しました。こうした一枚板の台形琴としては、納所遺跡の琴のほかには、あまり類のないものです。
 また、もう一点は細長い三角形の板琴で、長さは35センチ、尖端に小さな孔が一つ、その対辺には二つの突起がありました。4本の弦が装着されていたものと推定され、琴を奏でるときに擦った痕跡も見られます。この細長い三角形の琴は、静岡県登呂遺跡で発見された木の板が琴とわかってから以後、数多くの出土例が確認され、特に縄文時代の終わりから弥生時代の初めにかけての遺跡から多く出土しています。
 なお、弥生時代の琴には、二つの系譜が考えられています。一つは納所遺跡の琴のような板作りの琴です。もう一つは現代のように空洞の共鳴槽を持つ琴です。福岡県春日市辻田遺跡のものが代表的で、長さが148センチと大きなものです。現在使用されている琴と類似したものが弥生時代に既に形作られていたことがわかります。
 納所遺跡の二つの琴は、斎宮歴史博物館で今も見ることができます。夏休み、弥生時代の琴の音に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

(平成6年7月 和氣貴子)

二つの琴実測図(1:8)〔 納所遺跡 ― 遺構と遺物 〕

二つの琴実測図(1:8)〔 納所遺跡 ― 遺構と遺物 〕

参考文献

伊藤久嗣ほか『納所遺跡―遺構と遺物―』三重県教育委員会 昭和55年
水野正好「楽器の世界」『弥生文化の研究』第8巻 雄山閣 昭和62年
伊藤久嗣「弥生の琴と櫛」『三重県風土記』旺文社 平成元年
国立歴史民俗博物館『歴博フォーラム・日本楽器の源流―コト・フエ・ツヅミ・銅鐸―』第一書房 平成七年

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