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浜島町 とよたまひめものがたり
浜島町の浜島浦は、「なつかし浦」とも呼ばれています。
その名前には、竜宮から嫁いできたとよたま姫の物語が残されています。

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 むかしむかし、志摩半島(しまはんとう)の御座(ござ)の黒森(くろもり)に、お百姓(ひゃくしょう)さんや漁師(りょうし)さんを苦しめる怪物(かいぶつ)が棲(す)んでおったそうな。村の者(もん)はその怪物を退治(たいじ)しようと相談(そうだん)しとったが、よい案(あん)が浮(う)かばんかった。その話をお聞きになった、彦火火出見命(ひこほほでみのみこと)という神様(かみさま)が、
「よし、わたしが、その怪物を退治してあげましょう」
と、一人で黒森へ出かけて行ったそうな。
 神様は、森に棲んでおった怪物を退治して戻(もど)られ、村の者は、たいへん喜(よろこ)んで神様にお礼を言ったそうな。 その後、神様は浜島の炎崎(ほほさき)に移り、毎日山へ狩(か)りに行ったり、海へ釣(つ)りに出かけたりして暮らしておった。
 ある日、小島で釣(つ)りをしておると、磯(いそ)で遊ぶ美しいお姫(ひめ)様に出会ったそうな。
 神様がどこから来たのかたずねると、お姫様は、はずかしそうに、
「竜宮(りゅうぐう)から来ました豊玉姫(とよたまひめ)と申します。今、寝子瀬(ねこぜ)と言う浦に住んでおります」
と、答えたそうな。
 後(のち)に二人がはじめて会った島を大宿島(おおやどりじま)と言い、近くの小島を小宿島(こやどりじま)と呼ぶようになったんじゃ。
用語説明
御座(ござ)の黒森(くろもり)
見崎の山の俗称。志摩郡志摩町御座岬(ござみさき)の先端にある山。山名は沖合いから遠望すると木々が繁茂してこんもり黒く見えることに由来。

彦火火出見命(ひこほほでみのみこと)
神話上の神。ニニギノミコトの子。山野で狩(か)りをするのを日常とした。

炎崎(ほほさき)
浜島町本崎

矢取島
豊玉姫(とよたまひめ)
日本神話の海神の娘。兄から借りた釣針(つりばり)をなくし、海神の宮まで捜(さが)しにやってきた彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと/山幸彦)と出会い、結婚。

寝子瀬(ねこぜ)
浜島の小字「猫セ」。地名の由来は、猫(ねこ)の背のように丸く見える様子、また寝た子の姿に似ているからなどの説がある。



 しばらくして二人は夫婦(めおと)になり、三年たったある朝、豊玉姫は、
「子どもができましたので、赤ちゃんの家を建ててください」
と、頼んだそうな。
 神様はたいそう喜ばれて、さっそく浜島の浜辺(はまべ)に家を建ててあげなさった。
 ある日、「オギャー」という元気な赤ん坊の声が聞こえると、神様は、豊玉姫からの「子どもを産むときは、はずかしいので、家にお入りにならないでください」という願いを、あまりの嬉しさについ忘れて家の中に入ってしまったそうな。
 
大宿島・小宿島(おおやどりじま・こやどりじま)
現在の矢取島、小矢取島(やどりじま・こやどりじま)。この島の地名は神話伝説よりきた地名と伝わる。その昔、夫・子供を残して浜島を去った豊玉姫命が恋しい想いを矢文(やぶみ)にして届けたと言われている島。



   
「うわぁっ!」
 なんと家の中では、おそろしい竜(りゅう)が、赤ん坊を抱(だ)いておった。神様は自分の目を疑(うたが)ったが、何度見ても同じやったそうな。 お生まれになった若宮はとてもお健(すこ)やかな美しい玉の子で、後の神武天皇(じんむてんのう)になられたそうや。豊玉姫はしばらく若宮をご養育(よういく)されとったが、神様がご産室(さんしつ)をご覧(らん)なされたことをひどく悲しまれ、ある時、
「わたしは向こうの島に住む竜神(りゅうじん)の娘でございます。あれほどお願いしておいたのに……わたしの姿(すがた)をご覧(らん)になられはずかしく思います。もう、おそばにはいられません。どうか竜宮(りゅうぐう)へ帰らせてください…」
と、頼(たの)んで子どもを残して帰ることになったそうや。
 竜宮へ帰る日がやってきて、姫は、神様との楽しかった暮(く)らしを思い出して、別れをおしみ、大粒(おおつぶ)の涙(なみだ)をハラハラ流しなさって「あらなつかしや、あらなつかしや」
とおおせられ、姫は泣(な)きながら竜宮へ帰って行かれたんやと。
 その後、この浦は『なつかし浦(うら)』と、呼(よ)ばれるようになって、この浦でとれる真珠(しんじゅ)は、豊玉姫の涙が真珠になったと言われておるそうな。
 また弁天島(べんてんじま)には、豊玉姫をおまつりした『那都珂志社(なつかししゃ)』が明治のころまであったそうや。
 
なつかし浦
迫子浦(はざこうら)から矢取島を結ぶ浜島湾(はまじまわん)の別名

弁天島
浜島地区の小字。

那都珂志社(なつかししゃ)
明治40年9月16日に那都珂志社、宇気比社、稲荷社、天王社、雷社、琴平社、秋葉社、山神社、恵比寿社が合祀して宇気比神社(うきひじんじゃ)になる。



読み手:森 かお子さん