日が暮(く)れて、だんなが一人で畑に潜(ひそ)んだーたら、何やら物音が聞こえてきた。 「いよいよガラボシのお出ましじゃわい」 とだんなは棒(ぼう)をもって、川岸で待ちぶせてな、物音のした方へ石を投げこ込んだんじゃ。 ピタッと音はやんだ。だんなが耳を澄(す)ますと、何やら足音を忍(しの)ばせてこちらへ近づいてくるけはいがする。 だんなはころあいをはかって、手にした棒を打ちおろしたんじゃ。確かな手ごたえがあってのう、何やらかたい感じのものやった。ちょうど月明かりがさし込んで、わずかに明るくなったんでよう見るとの、今まで見たこともない子どもほどの生き物が横たわっとる。 「ははーん。これがガラボシか」 生き物の頭には皿(さら)があり、口はとがっとって、手にも足にも水かきがついたーる。それに、全身を青黒い毛でおおわれ、背中には甲羅(こうら)もついたーる。話に聞いたーたガラボシといっしょじゃわい、と思いながら、だんながしげしげと見ていると、ガラボシがゆっくりと目を開きよった。そして、 「これはこれは、だんな。申し訳ないことをしました。私(わたし)は昼間、水の中からだんなの仕事ぶりを見て、りっぱな船頭さんだと思っとりました。私はふだん、新宮(しんぐう)城の船着(ふなつ)き場の水の手に住んどりますが、近ごろ魚が少のうなって、小さい子どもも腹(はら)をすかしとるもんだから、ついついここまで来てしまいました。これからは子どもを引っ張りこんだり、畑のものを盗(ぬす)んだりしませんから、どうかお許しください」 と、涙(なみだ)ながらに必死になってあやまったんやと。