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嬉野町 おいなりさん
お稲荷さん
昔からきつねは人を化かすといいます。
きつねがおばさんにちょっぴりいたずらをした……
このお話は、昭和初期のころのお話だと言われています。

お話を聞く

 須賀領(すがりょう)の常夜灯(じょうやとう)のそばにな、お稲荷(いなり)さんがまつってあるやろ。
 これは、そのお稲荷さんのお話や。
 むかしはな、冬になると山へ芝刈り(しばかり)に行くことが多かったわさ。
 朝も四時半になると、もう、弁当に水筒(すいとう)を持って、縄(なわ)や鎌(かま)や斧(おの)やら芝刈りの道具一式を荷車に積んでな、五時ごろにはちょうど森本の寒風(さむかぜ)のあたりを通っていたんさ。
 冬の朝やもの、日の出もおそうて、朝の四時半言うたらまだ空も暗(くろ)うて、星や月も出とるくらいや。そやで、おとっつあんを送り出したおかやんは、夜の明けるまで一寝入りするんやさ。
用語説明
須賀領
嬉野町須賀領

常夜灯


森本の寒風



 ある朝のことや。いつもみたいにおとっつあんを送り出して、もう一度ふとんへ入って寝(ね)とると、ふとんの上に何や物を置かれたように、だーんだん、重(おも)なってきたんやて。
「なっとしたんやろ」
と思て、起きよと思うんやけど、今度はな、体が動かんようになってきたんさ。
「こりゃしもた。何としよう」
と、やっと目をうっすら開けてみると、きつねがおかやんの寝とるふとんの上で横になって寝とったんやて。
「こらっ! そのう、わしをバカにしくさって」
 おかやんは、そばにあった二尺指し(にしゃくざし)で、なぐろうとしたんやけど、体が思うように動かんようになってしもたんやさ。
 その間に、きつねはどこへやら消えてしもうたんやて。
 このおかやんはようだまされるんさ。
 
二尺指し
約60cmの物差し。一尺約30.3cm



   
 また別の日の朝のことや。いつものように芝刈りに行くおとっつあんを送り出してな、
「ええ星空やな。今日もええ天気やけど、山で雨にふられたらかわいそうやでな」
と言うて、おかやんはまた同じようにふとんにもどってもう一度寝ようとしとった。
 すると、雨がザァーザァー降ってきたもんで外へ出て
「あれ! 雨が降ってきたなー、今さっきまで星がよおけ出とったのになー。おとっつあん、山で困っとるやろな」
と言うて、またふとんにもどって一寝入りしたんさ。
 外が明るなってきたもんで、起きて外へ出てみるとな、雨のふったようすがあらへん。
「おかしいなー」
と思(おも)って、となりの人に
「おい! 今朝五時ごろ、えらい雨やったなー。そやけど何で道がぬれとらへんのやろ」
と聞いたんやて。すると、となりのおばやんは言うんや。
「何を言うとんのやな。わしも五時ごろ目ぇ覚めたけど、ちょっとも雨ふっとらんだに」
と言われ、
「あれ、ふったはずやのにな。おかしいなあ」
と言うて、おばさんは考えていたそうや。
 お稲荷さんのいたずらかなー。
   



読み手:吉川 美智子さん