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明和町 ちからのかみさま
ちからの神様
「池村の三つ岩」と恐れられた三人の若者は、
もともと力が弱くて悔しい思いをしていました。
この三人が力持ちになったのには、こんなお話があるのです。

お話を聞く

 池村で平助(へいすけ)さんが生まれた時のことじゃった。両親は初めての男の子なのでたいそう喜んでな。強い男の子になっておくれと、大事に育てたんじゃが、平助さんは病気がちで体がとても弱かったんじゃ。
 秋になると、平助さんの家では、ネコの手もかりたいぐらい取り入れに忙(いそが)しゅうての。
「平助、ちょっと手伝ってくれ」
と言われた平助さんじゃが、どんなに力を入れても米俵(こめだわら)を持ち上げることはできんかった。
「やっぱりおまえは頼りにならんのう。もうええわ、あっちへ行っとれ……」 
平助さんはくやしくてしかたなかった。なんとしてでも力持ちになりたい。そう考えながら山の方へ歩いておると、いつの間にか村の真峯池(まみねいけ)まで来ておった。池の真ん中には、ポツンと大きな岩があってな、それを見た平助さんは、
「大きな岩やのう。あんな岩を持てたら米俵の一俵(いっぴょう)くらい、らくに持てるやろなぁ」
とつぶやいた。そうして平助さんは、あの岩に願掛け(がんかけ)をしようと決心したんじゃ。皆が眠りにつくのを待って、真っ暗な山道をひたすら池へと走ってな。
「どうか、日本一強い男にしてくだされ」
と、雨の日も風の強い日も岩にお祈(いの)りしたそうな。
用語説明
池村
明和町池村

真峯池
明和町池村の潅漑用(かんがいよう)の池

願掛け
神仏に願いをかけること。



 すると、平助さんはだんだん力こぶも出てきて頼もしくなり、親もびっくりするくらいじゃった。
 このうわさは村中にひろがり、それを耳にした俊作(しゅんさく)さんと与吉(よきち)さんも、力が弱うてな。なんとか平助さんにあやかりたいと思ったんじゃ。
 そこで俊作さんは、平助さんが池から帰って来たのを見はからって、与吉さんは夜が明けるまでにこっそりと、村の人たちに内緒(ないしょ)で願掛けに行ったそうな。
「平助さんのような強い男にして下さい」
すると不思議なことに池の真ん中に一つしかなかった岩が、三つに増えて並(なら)んでいたんじゃと。まるで三人の願掛け岩のようじゃのう。
三人はそれぞれ毎晩願掛けに通うてな、やがて力の強い若者(わかもの)になっていったそうな。
   



   
 ある日、この三人の若者が伊勢へおかげまいりにでかけたんじゃが、小俣の湯田まで来ると大勢の人々が集まって騒いでいたんじゃと。
「こんな岩、誰もかつぐものはおらんやろ。これをかついだら、日本一や」
と大きな岩を前にして言いあっておった。三人の若者は、
「どれ、ちょっとかついでみようか」
といってまず俊作さんが最初にかつぎ
「うん。これはだいぶ重いのう」と岩を腰(こし)まで持ち上げて言ったそうな。
つぎに与吉さんが、
「うん。これはちょっと重いのう」と岩を胸(むね)まで持ち上げて言ったそうな。
つぎに平助さんが、
「うん。これは重いのう」と岩を両うで高く持ち上げて言ったそうな。
これを見ていた群衆(ぐんしゅう)は驚(おどろ)いたのなんのって、それからは、すもう大会、力比べがあるたびに
「池村の三つ岩が来た」
とおそれをなしたんじゃと。
そうしていつしか、この真峯池の三つ岩は「力の神さま」と村人たちの間でささやかれるようになり、願掛けに来る若者が絶えなかったということじゃ。
 
おかげまいり
伊勢神宮へ参拝することで、特に約60年に一度のおかげ年に参拝すると特別のご利益(りやく)が与えられるとされた。



読み手:朝倉 しずさん