「国の一句」入賞句 総評
二学期へ大きな海の絵をかかへ
長い夏休みが終わり二学期が始まる。児童達は一学期とはまた違う緊張と期待と、そして思い出、奮闘の象徴であるノートや図画、工作などを持って登校するのだ。
この作品の場合はそれが抱えきれないほどの大きな海の絵、そこには青い海と白い波、輝く太陽、行き交う船などが画用紙一杯に描かれているのであろう。一緒に登校する子供達の元気で弾けるような笑い声が聞こえるような、希望に満ちた作品である。(三重県俳句協会)
降り立ちて白夜の国と気づきたり
長い時間飛行機に乗ってやっと目的地に着いた。時計は夜も更けた時間を示している。
にもかかわらず外は明るい。時刻を間違えたのかと思ったが、すぐこれが白夜だと気付いたのである。その一瞬のとまどいが良く表現されている。私には逆の経験がある。12月末のアイスランドに降り立った時である。朝10時もかなり廻っていたにもかかわらず、空が暗い。思わずスチュワーデスに何時かと確かめ、北極に近いのですと言われてそうかと思ったのである。(有馬朗人氏)
一位の木匠の国にみどりなす
匠の手になる笏や工芸品は、堅牢な樹質で知られた一位の木を引き立てる。東アジアの寒地の山に多く、日本では全山が一位でおおわれた飛騨の位山のものが有名。ここの木が笏に賞用されていることから、一位という位を賜り、山名も位山になったという。そんな山の一位の常緑が、時季を得てますます緑を深め、艶を増す。縁起のいい樹として重宝されているだけに、深く静かなよろこびが伝わる。
(宇多喜代子氏)
桜さく神が宿れる伊勢の国
日本人ならば誰でもが昔から生涯に一度はお伊勢参りをしたいと思っているのでございます。計らずもこの伊勢参りとは俳句の上でも大きな季題となってゐるのです。風光明媚な伊勢の国は神が宿れる国なのです。伊勢神宮の御祭神は天照大神で何千年という楠の木や柏槙ですら神々しく思へるのです。この句上五の桜咲くとの出だしから伊勢を讃える挨拶句として見事に出来上がっていると思います。国の一句として品よく纏まっていて心より推薦させていただきました。(星野椿氏)
ぶるぶると起ちて仔馬となりにけり
二足歩行の人間とは異なり、馬や牛は生まれてしばらくで起ち上がることができる。とはいえ、生まれてすぐの細い四脚に懸命に力をこめて起ち上がろうとするその姿は、見るものに生命の尊さそのものを教えてくれる純粋さがある。
この作品の’ぶるぶると起ちて’が仔馬の可憐さと次第に力の満ちてくる姿をよく伝えている。
(三重県俳句協会)