更科紀行
姨捨山(長野県埴科郡戸倉町)
俤や姥ひとり泣く月の友
(おもかげやおばひとりなくつきのとも)
十六夜もまだ更科の郡かな
(いざよいもまださらしなのこおりかな)
芭蕉が、門人に自信作として語ったと伝えられる芭蕉秀句の中の一句。主題は「姨捨伝説」であり、それを叙情の世界に再構築したもの。姨捨伝説は、若い息子が妻にそそのかされて老母を姨捨山に捨てたが、姨捨山に出る月の美しさに目が覚めて、母を連れ帰ったとするもの。あるいは、苛斂誅求な圧政に苦しんで老人を捨てたとされるものなどがある。古来、描かれてきた姨捨伝説は前者。ところで姨捨の月は、「田毎の月」として、土佐の高知の桂浜、石山寺の秋の月と並んで日本三名月とも言われた。