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みえの文化びと詳細

地域 中勢地域
名前 関井 英志(せきい ひでし)

関井英志さん
関井英志さん

プロフィール 1957年 津市美里町(旧安芸郡美里村)生まれ。津市在住。
 1980年より津市片田にある社会福祉法人敬愛会の職員となり、 障害者支援施設 長谷山寮で勤務を始める。
1996年より同支援施設 津長谷山学園に移り、今に至る。
 長谷山寮では陶芸グループを担当。薪で焚くやきもの窯を築き、1985年から『やけもん展』を毎年一回開く。
津長谷山学園に移動してからは、創作グループを担当する。創作活動では、陶芸、紙漉き、絵画、版画等にとりくむ(学園内には他にさをり織りのグループもある)。
 1998年より『へちもん展』(※「へちもん」とは、信楽焼の職人の言葉で、「ふうがわりなもの」のような意味。職人の均質で整った製品に対して、作家の個性的で遊び心のある作品を指して使われた)として、やきものの展示会を毎年一回開き、10回の開催となった。その後、創作活動の直接の担当から離れたため、時間を要するやきものの創作は休止しているが、絵画や版画の創作活動に現在も関わっている。                           
 2012年から開催されている「三重県障がい者芸術文化祭」には毎年作品を出展し、受賞作品も多い。
 自身も自宅に窯を築いたり、木版画作品を制作する等、創作を楽しんでいる。
記事 津市西端、なだらかなハイキングコースとしても知られる長谷山の豊かな自然のなかに知的障がいの方の支援施設である津長谷山学園があります。関井さんはこちらで長く創作活動の支援に関わってこられました。

―「GALLERY 遊」にて
  敬愛会のいくつかの建物を横に見ながら山の木々の中の道を上へと上って行くと津長谷山学園に着きます。敷地に入ってすぐ右手、花壇の奥に「GALLERY 遊」が見えます。古い建物を改装して利用者の方の作品展示の場としており、入口横の木製の看板には利用者のおひとりが書かれたみごとな『遊』の字が刻まれています。
  ギャラリーのなかは懐かしさを感じる造りで、版画、絵画、書、鉛筆画、やきもの等の個性溢れる作品が展示されています。どの作品も技量を持ちながら、おおらかでユーモアがあり、それぞれの作者の内側から素直に出てくる力のようなものに見る者のこころが惹きつけられます。ここで関井さんにお話を伺いました。
  創作活動を支援するに当たって関井さんは、利用者の方が創り上げた作品を「ていねいに」扱うという姿勢を心がけてきました。そのことが、利用者の方一人ひとりが持ち合わせている作風を生かせるように画材を選んだり、工夫したりすることや、作品ごとに相応しい額装や展示方法を考えるというサポートのあり方につながっているとのことです。       
  また、良い作品づくりにつなげていくためには、職員が利用者に様々な取組みや試みを経験させてあげることが必要だというサポートに対する考え方も印象的でした。
  
―「遊ぶ、楽しむ」
  関井さんが敬愛会に就職し、長谷山寮で陶芸グループを担当していた頃は、売れるやきものを作って収入を上げることでグループの利用者の自立につなげられるようにとの使命感から、作業としての陶芸をしていました。薪の窯で自然柚のやきものを作っていたので、自分では立派なものができていると自負していました。しかし第一回の『やけもん展』を見たある陶芸作家の方に「おもしろくない」と言われてしまいました。そして、その方との縁で、初代川喜多半泥子の作品と考え方に触れ、関井さんは、大いに影響を受けることになります。その後は、立派なものでなくてもいい、既成概念に囚われず、自由に遊び心のあるやきものを作ろうという考えに変わったそうです。
  その頃、自宅でも作陶し、縄文の壺にこころを惹かれていた関井さんは、時々無性に山を歩いて土を探したい衝動に駆られていたそうです。ある時、自分にとっては既製の方法で作ることより、山を歩いて土を探すことも含め、作陶に関わる作業全体を自分で工夫して試みることが、苦しいことを伴いながらも楽しいと感じていることに気付きました。そして、施設内の創作活動においても、「楽しい」という気持ちを大切に取り組んでいったところ、第二回の『やけもん展』は「おもしろい」との感想をもらい、新聞のコラムでも良い評価を得たのだそうです。結果的に作る人にもサポートする者にも観る人にも「楽しい」気持ちが生まれました。          
土をはじめ、長谷山での創作に長谷山の自然の恵みを利用する試みには、自由な発想が必要になります。材料に合わせて道具や方法を工夫する必要がでてきます。人と自然が出会って互いを生かし合う過程が創作の過程や作品の形に広がりをもたらすと関井さんは考えます。

―「創造のリュック」
   「誰もが創造のリュックを背負っている」と関井さんは言います。障がいがある人達
は背負うリュックさえ持っていないと思われることがあるけれど、誰もが持っているのです。しかし、背負ったままだと自分でその中身を見ることもできません。リュックを降ろして中身を出して広げることで自分が自分に出会い、他の人にも見せること
   ができます。中身を人に見せることが大事だと関井さんは話します。見せることで出会い、出会いが新たなものを生み出す。まず、リュックを前にもってきていつでも中身を取り出せる状態にしておくのが大切なのでは…、という関井さんのお話を聞きながら、「誰もが」そのリュックを持っているんだという事に気付くことが、障がいの有無を超えて、一人ひとりの喜びと、「楽しい」に繋がっていくのだろうと思いました。

― これから
関井さんは定年が近いので、自分の経験から得たことを若い人たちに伝えていきたいと思っています。また、障がいのある方の作品にもっとたくさん出会って、自分が心惹かれた作品を多くの人に鑑賞してもらえる場をつくれたら、と考えているそうです。そのような場を通じて、社会における障がいに対する感じ方や考え方が変わっていくことを願っているとのことでした。
   「GALLERY 遊」の作品ももっとたくさんの人に観てもらえるといいですね。
版画 一版多色刷り 絹布
版画 一版多色刷り 絹布
画用紙に鉛筆画 レストラン
画用紙に鉛筆画 レストラン
問い合わせ先 津長谷山学園
059−237−1055
e-mail  
ホームページ  
取材機関 三重県環境生活部文化振興課
電話番号:059−224−2233
Mail:bunka01@pref.mie.jp
登録日 平成30年5月11日

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