R-816　　2点組

解説	真っ黒な画面から切り抜かれたかのようにして、イメージが浮かびあがる。画面上方には二人の人物がおり、ともに防寒具のような衣服を身につけている。一人はうつむいた姿勢で、その背中をもう一人が縫いとめているらしい。この情景が何を表わしているのかは不明だが、簡略化された線から、微かなユーモアを読みとることもできなくはない。　右下には階段のようなイメージが描かれ、さらに左の部分に、やはり意味のよくとりがたい線が延びている。この黒い線は凸状をなしており、支持体である紙の裏側から強く押したことがわかる。黒地もまた、グラファイト（石墨、黒鉛）を几帳面に塗りこめたもので、人物や階段状のイメージは塗り残された部分なのだ。　丸彫りの彫刻が木や石の内部からイメージを抽出するように、ここでも、紙の上に外在的なイメージを描き足したというより、グラファイトで紙に働きかけることによって、厚みや弾力をもつ物体としての紙の内側から、イメージを引き出したのだといえよう。（石崎勝基）（三重県立美術館所蔵作品選集(2003）より）
展覧会歴	移動－バレンシアの七人展（三重県立美術館　1997）no.6
文献	Joan Cardells dibujo, IVAM, Valencia, 2005, p.74

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