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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 2013 > 三重県立美術館コレクション探訪 縦に長い絵、横に長い絵 原舞子 友の会だより93 2013.11

 

三重県立美術館コレクション探訪
縦に長い絵、横に長い絵 当館所蔵の2点の川村清雄作品

原舞子

 当館が所蔵する川村清雄による2点の作品。1点は留学の地であるヴェネツィアを描いた《ヴェネツィア風景》、もう1点は梅、桜、桃、椿という春を代表する4つの花が描かれた《梅と椿の静物》です。2点の作品を初めて目にした方が感じられるのは次のことでしょう。

「縦に横に、極端に長い絵だな。」

 確かに1点は横に、1点は縦に細長い画面であり、並べて見るとその比率がさらに際立って見えます。しかも、《ヴェネツィア風景》は粘りのある絵具を用いて素早い筆致でヴェネツィア近郊の様子をとらえた「西洋風」の油絵に仕上がっている一方で、《梅と椿の静物》は金地を背景に古い釣瓶にいけられた花や塗りの小箱などが配置され、油絵具を用いながらあくまで「日本風」のたたずまいです。

 この幅の広さは、川村清雄が10年におよぶ海外留学を通して西洋の油絵技術とその精神性も体得していたことと、江戸城御庭番の家筋の中でも名門とされた川村家に生まれ上質な武家文化に囲まれて育ったこととのふたつの面に由来しています。

 しかし残念ながら、この江戸の香りをまとった油絵師には長らく光があてられず、日本近代美術史の中では孤立した存在となっていました。今から30年ほど前から徐々に画業の見直しと美術史上の位置づけがすすめられ、昨年2012年には大きな個展が東京と静岡で開催されました。縦長の絵と横長の絵。見た目は全く異なりますが、どちらにも川村清雄の豊かな芸術世界が広がっています。

(友の会だより93号、2013年11月30日発行)

 

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