このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

サイト内検索

美術館 > 刊行物 > 学芸室だより > 新聞連載 > 「商圏」と美術館運営 『津文化協会会報』 2013.3 井上隆邦

「商圏」と美術館運営

井上隆邦

 昨年、当館の開館三十周年記念事業として「型紙スタイル展」を開催した。この展覧会は東京の三菱一号館美術館、京都の国立近代美術館そして当館が、四年がかりで準備してきたものだ。展覧会は東京、京都を巡回し、三重が最終会場となった。型紙といえば三重が発祥の地だが、展覧会の入場者は東京の七万人、京都の三万人に対して三重は一万六千人にとどまった。

 三重での一万六千人という数字をどのように評価したら良いのか。多いのか少ないのか。展覧会の主催者であれば誰しも、できるだけ多くの観客を動員したいと考えるものだが、こればかりは主催者の努力だけでは如何ともしがたい現実がある。動員が芳しくないと、すぐに広報不足が指摘されるが、こうした考え方は短絡的すぎる。

 観客動員を左右する大きな要因の一つは、美術館の立地する地域の人口規模だ。後背地の人口規模が大きければ、動員数も増える。より具体的に言えば、美術館にとって周囲三十キロ圏内が「商圏」だ。東京あたりの場合、「商圏」の人口規模は軽く一千万人を超える。これに対して三重では多く見積もっても百数十万人であろう。津に立地する当館の主たる「商圏」は北が四日市、南は伊勢あたりということになる。

 観客動員数は無論展覧会の内容によっても違う。印象派など人気の展覧会であれば、絶対数は大きく伸びる。しかし人気の展覧会であっても小さな都市での開催となれば、大都市にはかなわない。裏を返せば、人気の展覧会は大概、大きな初期投資を必要とするので、その回収が困難な都市での開催は難しい。無理をして開催すれば大きな赤字を背負うことになる。一方、現代美術の展覧会などは大都市でも苦戦するので、小さな都市での開催となると、それなりの「持ち出し」を覚悟しなければならない。

 開催都市の付随的な魅力も観客動員数に影響する。当館との関係でいえば、県外からの来館者に評判の良いのが、美術館から車で十分くらいのとろにある肉屋「朝日屋」さんだ。松阪牛の販売で全国的にも有名なお店だ。展覧会鑑賞後立ち寄る人も結構いる。因みに名古屋からの集客を前提とした場合、津と名古屋の往復料金は急行で二千円前後。これに展覧会の入場料を加えれば、最低三千円の出費は必要不可欠だ。展覧会の後、ショッピングや食事を堪能できれば、三千円の出費も苦にはならない筈だ。

 「商圏」は実に悩ましい現実だ。しかし、こうした点への目配りを欠いては美術館運営は成立しない。

(『津文化協会会報』 2013.3)

ページID:000057793