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美術館 > 刊行物 > 学芸室だより > 新聞連載 > 食事のマナーは微妙で難しい 井上隆邦 2011.8.19 学芸室だより

筆者別原稿一覧:井上隆邦

 

食事のマナ・[は微妙で難しい

井上隆邦

 

 食事のマナーは、供される食事に応じて臨機応変に対応しなければならないので、微妙で難しい。そばを啜る時の「ズルズル」という音は許されても、ディナーの席で音を立ててスープを飲もうものなら、周囲の射るような視線が飛んでくる。禁じ手であるのは言うまでもない。

 禁じ手と言えば、立食パーティーで、てんこ盛りになった皿を抱え、壁際の椅子にどっかりと陣取り、ひたすら食欲を満たすのも考えものだ。外国人が大半を占めるパーティーでこうした行動をとれば、次回からお誘いがかからないかもしれない。

 せっかくのパーティー会場で一人ぽつねんと佇んでいるのも不作法というものだ。こうした会場では飲み物を片手にカナッペでも摘まみながら、社交に徹するのがスマートであろう。パーティーこそ貴重な情報交換の場であり、人脈を形成するための絶好の機会なのだから。

 マナーを巡るこぼれ話を一つ。外交官達が会食した折のこと。招待された某国の外交官はいたってマナーに疎く、会食の途中で、指を洗うためのフィンガー・ボールを差し出されたところ、飲み干したという。レモンの断片が浮かぶフィンガー・ボールは見た目にも美しく、食欲を刺激したのかもしれない。

 しかし素晴らしいのは、ホスト役がその時とった行動だ。すかさずフィンガー・ボールに手を伸ばし、そ知らぬ顔で飲み干したという。相手に気まずい思いをさせなかったことは言うまでもない。さすがは練達の外交技というものか。

 とかくマナーは難しい。一つ間違えると取り返しがつかない。

 

(朝日新聞・三重版 2011年8月19日掲載)

 

学芸室だより

 

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