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美術館 > コレクション > 所蔵品解説 > ミロ 《岩壁の軌跡》 1967年 解説

ミロ 《岩壁の軌跡》 1967

ミロ、ジョアン(1893 スペイン -1983)
《岩壁の軌跡》 全6点
1967年
エッチング、 アクアチント・紙

各58.5×92.5cm 

 

「岩壁の軌跡Ⅱ」

 アトリエの中で拾った古い銅版をミロは再利用していたという。ずっと前についたシミや傷をそのまま刷れば、それらは次の作品の肌理(きめ)としてミロの創造を導いた。粗いテクスチェア(質感)は、しばしば故郷力タロニアの岩肌を思い出させた。
 この話は、ミロと銅版とのかかわりを示すエピリードにすぎないが、それでも「岸壁の軌跡」のアクアチント(腐食銅版画の一種)でニュアンスをつけた薄黒い地が、岩肌の表現であることを教えてくれる。
それもただの岩肌でなく、タイトルの通り岸壁である。版画という小さな世界と、岸壁というスケール感が、ミロの中で結び付いているのが面白い。
 版画をつくる時のミロは、友人たちには「出発点に立って、呼吸をはかり、気合で一気にさっと行く選手」のように見えたらしいが、この時も、そのようにしていざという瞬間を待ちながら、ミロは何を夢想していたのだろう。やはり、カタロニアの大地を刻んだ遠い祖先を、あのアルタミラなどの洞窟(どうくつ)壁画を描いた人たちを自分の上に重ねていたのではないだろうか。
 先史の壁画や中世のフLレスコ画など、ヨーロッパ文化の濃厚な部分をいまだ保つカタロニアの歴史にここで詳しく触れることはもうできない。だが、ここに現れたミロが、私たちになじみのユーモアあふれるミロでなく、ヨーロッパの硬質さと重みを一片の詩に変えたカタロニアの人であることをあらためて感じとらせてくれる作品である。(桑名麻理 2000年8月3日中日新聞掲載)

 


 「岩壁の軌跡Ⅲ」

 今回紹介するのは、ミロの「岩壁の軌跡」と題された銅版画の大作の一つ。「岩壁の軌跡」は、「壁の上の痕跡」あるいは、「岩壁の上の道筋」とよばれることもあり、全部で六枚から構成される(掲載写真はその三)
 岩の上に描かれた原始時代の絵画を連想させるかのように、毛筆で描いたような赤、黄、緑、青の太い線と、引っかき傷のような細く鋭い線が、画面各所に自由にひかれている。
 このおおらかで自由な気分にあふれた画面は、気ままに画面の中に遊び、様々に空想を働かせることを見るものに誘う。
 ミロは、一点限りの油彩画に比べて、版画は、自己のメッセージの届く範囲を広げることができ、しかも版画製作を通じて、自身の創造性をさらに向上させることができると述べて、数多くの版画作品をのこした。
 そして版画製作に当たっても、油彩画を描くときと変わらない厳しさを持って作品の高貴さ、雄大さを追求したという。この「岩壁の軌跡」にも、そうしたミロの版画の特質が強くあらわれているということができる。(毛利伊知郎)サンケイ新聞1990年4月8日掲載

 

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