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美術館 > コレクション > 所蔵品解説 > カンディンスキー 《小さな世界》 1922 解説

カンディンスキー 《小さな世界》 1922

 カンディンスキー、ワシリー(1866 ロシア -1944)

《小さな世界》 全12点

1922年 木版、リトグラフ、ドライポイント・紙

35.5×28.0cm 他

 

《小さな世界Ⅴ》 木版・紙 35.4×27.6cm

 カンディンスキー《小さな世界Ⅴ》 1922

 小さな世界は石版、木版、銅版各四点、計十二点の版画集の名前。
カンディンスキーはここで、三種類の版画の特性をいかした作品を試みている。
彼はある本のなかで、平版である石版では明快さを、凸版の木版はぬくもり、凹の銅版は鋭く繊細な表現が得られると述べている。
 その三つの特性を、さらに抽象的な形によるモチーフで強調する。
 例えばアミーバーのような形体や円、格子などで、それらが画面で反復され、リズムを与える。まるで音楽のように響きあう絵画、カンディンスキーが求めた効果とは、まさに色と形による音色である。
 限られた大きさのなかで、技法の制約をうけながらも、個性を表現するこの版画集は、その意味で、画家のひとつの実験であったといえるだろう。 (荒屋鋪透 中日新聞 1991年2月1日掲載)

 

 

《小さな世界Ⅸ》 ドライポイント・紙 29.9×26.7cm

 カンディンスキー《小さな世界Ⅸ》 1922

  「小さな世界」と名付けたこの版画集でカンディンスキーが試みているのは、木版、リトグラフ、ドライポイントという版画の異なる技法を使い分けて、それぞれ固有の「響き」を引き出すという実験である。その成果はやがて『点・線・面』という彼の代表的著作につながっていくが、その中で彼は、科学的ともいえる態度で絵画の基本的要素について精細かつ体系的な分析を行い、絵画の自律的な理論を構築している。
 この一点は、ドライポイント固有のにじみのある線で構成された白と黒の世界で、木版やリトグラフにないシャープで繊細な表情を帯びている。
 カンディンスキーが革命後の祖国ロシアを失望のうちに去り、きわめて斬新な造形教育を実践していたバウハウスに招かれて赴任した直後に制作されたこの版画集は、一つの重要な転換点であった。それ以前からのモチーフを継承しつつ、画面ではかなり整備され、色と形からなる完全な秩序を構成することに全力が傾けられている。
 具象と抽象の間を行きつ戻りつ進めてきたカンディンスキーの実験は、バウハウスの実験精神に勇気づけられて、ますます大胆に推し進められようとしている。彼固有の様々なモチーフが凝縮されたこの小宇宙は、他にはない不思議な調和の法則に従って、空間に浮かんでいる。(士田 真紀 サンケイ新聞1991年2月10日掲載)


《小さな世界 XI》  ドライポイント・紙 29.3×26.8cm

 カンディンスキー《小さな世界ⅩⅠ》 1922

 画面にぱらぱらと、何かの略図ともつかない形態が散らばっている。
 中央右上の黒い点は、もやに囲まれた天体のようだし、その右上の斜線の束は、光ととれなくはない。
と思えば、音符めいた抽象的な形もあって、一貫した原則はなさそうだ。
 その配置も、ごく大まかには、二本の対角線が基準になっているようだが、そこからはっきりした方向や動きが生じているとは、とてもいえまい。
 配置や線描は、ふらふらと浮動するばかりで、頼りなげな、といっても過言ではない。
 しかし、それゆえにこそ、さまざまな可能性をはらんでいはしないか、その判断は、見る者一人一人にゆだねられることだろう。 (石崎勝基 中日新聞 2000年10月26日掲載)

 

 

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