国宝“松浦屏風”との再会
井上隆邦
奈良の大和文華館がリニューアル・オープンしたので出かけた。本館の改装が済み、展示ケースも一新、庭も綺麗に整備されていた。今回の訪問で、何よりも嬉しかったのは、国宝“松浦屏風”との再会だった。
この屏風と最初に出会ったのは三十年以上も前のことだが、当時受けた鮮烈な印象は今も変わることはない。六曲一双の大きな屏風に登場するのは遊女や遊里で養われている童女たちだ。その群像表現はダイナミックで、どことなくオペラの舞台を彷彿とさせる。
総勢十八名の遊女が無論主役だ。髪を梳かすもの、手鏡を見ながら紅をさすもの、カルタや三味線に興じるものなど、そのポーズが人目を引く。
遊女たちの豪華な衣装も見どころの一つだろう。デザインが一人一人違い、凝っている。色彩が豊かなのはいうまでもない。屏風の背景が全面、金地なので衣装の素晴らしさが際だつ。さながらファッション・ショーを見る思いだ。
江戸初期の作とされるこの屏風は、対外交流の拠点だった平戸藩の藩主、松浦静山が京都で購入、同家に伝来したもので、大和文華館に収まったのは昭和二十七年とのこと。残念ながら作者は不詳だ。
嘗て、奈良博の館長も務めた鷲塚さんと一献傾けた折、国宝の定義に話が及んだ。鷲塚さんによれば、国宝には表現力や技術力を越えた魅力があるという。鷲塚さんの言葉を敷衍すれば、それは気品とか、自由で闊達な精神ということであろうか。
再会した国宝“松浦屏風”を眺めていて、鷲塚さんの話を思い出した。
友の会だより、no.85、2010年11月30日発行