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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 2010 > 表紙解説:杉戸洋《The Second Lounge》 ひろがるアート~現代美術入門篇~より 石崎勝基 友の会だより85 2010.12

 

友の会だより文集抄

 

表紙解説

杉戸 洋(1970- )
《The Second Lounge》

2002年
アクリル絵具・画布
268.5×415.5cm
愛知県美術館蔵

愛知・岐阜・三重 三県立美術館協同企画 ひろがるアート~現代美術入門篇~』展より(2010年10月23日~12月19日)

 劇場の舞台と思われる画面は、ほぼ左右相称の構図をしめしており、そのため見る者の目は、画面中央に引きよせられずにいない。しかしそこには、からっぽの白いひろがりがあるばかりだ。ただ、画面をながめ続けると、中央のひろがりが文字どおりからっぽなのではなく、今はまだない何ごとかの、予感を暗示しているように感じられないだろうか。

 これは、中央部分を埋める白が塗りむらを示しており、その下層にある暗色の地を覆っていると感じさせることによるのだろう。くわえて、左右および上辺を縁どる緞帳、床の赤系統の市松模様などに囲われているため、白いひろがりがはらむ深さは強調されずにいない。

 左右相称の構図は線遠近法にのっとったものだが、床と壁の境をなす左右の辺を延長すると、消失点はかなり高いところにあり、ずいぶん深い奥行きが設定されていることになる。床も、ひどく高い視点から見下ろされている。床に散らばる点状のものは、近づいてみれば椅子であるらしい。椅子が人の身の丈に合わせたものだとすると、描かれた空間はおそろしく巨大なものと見なさざるをえない。また白いひろがりの中央下部は、緞帳の重なりを表わしているのか、あるいは富士山のような山の絵なのか。

 ながめるほどにつじつまのあわない画面がもたらすのは、つまるところ、予感を秘めた空間のひろがりそのものなのだろう。この予感を支えるのは、離れてみれば水気を含むかのようで、しかし近づけばざらざらとした質感をしめす絵具の塗り方から生じた、表面の向こうに何かがある、という感覚にほかなるまい。 

石崎勝基(三重県立美術館学芸員)

 

友の会だより、no.85、2010年12月発行

ページID:000057524