このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

サイト内検索

美術館 > 刊行物 > 所蔵品目録 > 「125の作品」刊行によせて 陰里鐵郎 125の作品・三重県立美術館所蔵品 1992

「125の作品」刊行によせて

陰里鐵郎

三重県立美術館は今年(1992)、開館10周年を迎えた。その記念のひとつとしてここに美術館のコレクションから125点の作品を選び、解説を附して一書を刊行することになった。現在、コレクションは、総数としては約1500件、点数にして3500点余に達している。これらのなかから125点を選び、解説は、必要に応じてそのときどきに学芸貞各位が執筆し、新聞紙面等に発表したものが主となっている。

これまでに開館時(1982年)と、5周年(1987)との二度にわたってその時点における所蔵品総目録を刊行してきた。その序文のなかで、三重県立美術館コレクションの短い歴史について若干記したことがあるが、ここでもすこしだけそれに触れておきたい。

三重県立美術館としての収集活動が開始されたのは開館2年前の1980年3月からであった。そのとき、所蔵が予定されている作品はただの一点も無かった。公立の美術館でしばしばみられるような、継承すべきコレクション、寄贈作品など、皆無であったのである。美術館建設の準備事務局と設置された美術館美術資料選定委員会(当初の委員長、土方定一)とは収集の基本方針の決定からすぐさま収集活動へと精力的に活動を開始し、開館のときにようやく300余点の収集がなされたのであった。その間に、美術館支援を事業目的として設立された岡田文化財団からの作品寄贈などがあったことは銘記されねばならないであろう。

三重県の場合、美術館の名称に「近代」、「現代」といった語を附けなかった。コレクション、展覧会活動など、全体としては近・現代のそれに比重が多くかかっていることはあらそえないであろう。それでもあえて「近代」といった語を附けなかったのは、美術館活動に歴史的視点においても広がりをもたせるベきとの配慮があったのである。しかし、コレクションに関していえば、あらゆる意味で「現代」が起点である、と考えている。これは、現代美術が収集の対象であるという意味ではない。現代の美術はもちろんのこと、過去の美術資料のすべてが「現代」の視点に立って収集の対象と考える、ということを意味している。

すぐれたコレクションを形成していくには長い時間を必要とする。国内・外のすぐれた美術館のコレクションがその証である。10年余という時間は、その意味では、極めて短い、小さな歴史でしかないが、やがて大きな集積の基礎をなす小さな一部の、そのなかの輝きをもつ一部として本書は編まれたものである。

美術館、なかでも公立の美術館は、社会教育機関として、それも視覚をとおしての社会教育施設として位置づけられてきた。そして現在、社会教育はかつての学校教育と併立する図式を脱しようとしている。学校教育に比すれば著しくといってよいほど軽視されてきた社会教育であったが、それを脱し、またシステムとしてもかつての社会教育からは極度に変貌しようとしている。「美術館教育(Museum education)」といった運動が国際的にも活発化してきているのもそれゆえであろう。

本書が、三重県立美術館を訪れる人たちにとって鑑賞の手助けになることを私は願っているが、同時に本書、またその解説から自由であることをも願っている。ともあれ、私たちは本書を、三重県立美術館10年の記念のひとつとして皆さんにおおくりしたい。

本書の刊行にあたっては、全面的に三重県立美術館協力会の支援と助力をいただきました。ここに記して厚く感謝の意を表します。

(三重県立美術館長)

ページID:000057209