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ごあいさつ

 伊東深水は、1898年(明治31)東京深川に生まれました。13歳で鏑木清方に入門し、翌年から作品を発表するようになります。

 大正後期には、妻好子をモデルにした抒情性豊かな《指》(大正11年)や《湯気》(大正13年)を発表して人気を博し、昭和前期に《宵》(昭和8年)、《鏡獅子》(昭和9年)などで独自の美人画を確立します。以後、1972(昭和47)年に74歳で亡くなるまで数多くの美人画を発表し、鏑木清方、上村松園とともに近代日本を代表する美人画家として知られています。

 伊東深水の美人画は、江戸時代以来の浮世絵美人画に近代的な感覚を盛り込むことで誕生したといわれます。そうした深水美人画の誕生には、この画家が日常的に行っていたデッサンが大きな役割を果たしていました。

 深水は「天性の素描家」といわれるほどデッサンに熱心で、膨大な量のデッサンを残しました。その主題は、女性像だけではなく、風景、花や樹木、動物など多岐に渡ります。そして、これらのデッサンは深水の創作過程を探る重要な資料にとどまらず、絵画作品としても大きな魅力を持っています。深水のデッサンは画家生前中から折に触れて紹介され、そこにはこの画家の本画からは窺い知れない特質をはっきり見て取ることができることから、関係者の注目を集めてきました。

 現在、深水のデッサンは各地の美術館や個人収集家によって所蔵されています。本展で紹介する作品は、近代日本画の優れたコレクションで知られる名古屋市郊外の名都美術館が近年新たに収蔵したものです。

 展覧会は、(1)人物百態、(2)旅の空にて、(3)自然への眼差しの三章から構成されています。生気あふれる様々なデッサンを通じて深水の素顔に接していただき、自由闊達な筆さばきが生み出すデッサンの魅力をご堪能いただければ幸いです。

 最後に、展覧会開催に当たりご協力をいただいた名都美術館、伊東正一様・治子様ご夫妻、その他関係各位に心からお礼申し上げます。

2006年9月

三重県立美術館長
井上隆邦

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