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T.人物百態

 美人画家・伊東深水にとって、人物―特に女性が最も重要な写生の対象であったことはいうまでもありません。和装、洋装、裸婦、様々な女性がデッサンに登場します。中でも、和服姿の女性像の数々は、深水のデッサンの中で最も大きな位置を占めています。

 深水が人物デッサンを重要視していたことは、深水長男・伊東正一氏らの紹介文がその詳細を伝えています。それによると、深水画塾では月例研究会の他に、毎週深水の画室でモデルのデッサンが行われていました。深水はモデルの全体像の速写に加え、部分写生も多数描きました。人物の自然な動きを写し取るために、時には写真家・長浜慶三に日本舞踊の連続写真撮影を依頼して、参考にしたといいます。

 このようにして大量に残された女性像のデッサンには、後の完成作と同じモチーフ、完成作の部分図的なものなど本画に直接つながるものとともに、画家の模索の跡を示すものもあわせて見ることができます。

 一枚の紙の中に複数のポーズ、あるいは全身像とその部分など複数の図が描き込まれたデッサンを見ていますと、結果として構図も整った一枚の絵として鑑賞可能なものが少なくありません。描き直しや加筆があっても、あるいはそうした図らざる行為の中にこそ深水の本性や力量が現れるのではないかと思えてきます。

 これらのデッサンでは、人物が示す生動感が最も大きな魅力です。その生動感は、線自体の躍動感と、そこから生まれる立体感の表出に由来しています。深水は、デッサンでは決して「描き込み」ません。あくまでも簡潔な線描のみで素速く対象の本質をとらえようとします。深水のデッサンは、線描が持つ多様な表現の可能性を私たちに教えてくれます。

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