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岡田文化財団と三重県立美術館−その支援活動の歩み

酒井哲朗

岡田文化財団が創設されて20周年を迎え、これを記念して財団が三重県立美術館に寄贈した作品による展覧会を開催し、県民の皆様にみていただくことになりました。 この財団は昭和55(1980)年2月、三重県立美術館の開設準備に歩調を合わせて設立され、今日まで力強い支援活動を展開してこられました。

財団の設立目的は、「県民の芸術文化に関する知識と教養の普及向上に資し、もって三重県の文化の振興発展に寄与すること」(財団法人『岡田文化財団寄付行為』)であり、 その事業として、美術館に対する作品寄贈、美術展覧会の開催(この中には美術館との共催展が多く含まれます)、美術館の展覧会や普及活動などに対する助成、 優秀な芸術家の表彰や新進芸術家の育成援助などが行われてきました。

岡田文化財団の文化支援は、主として三重県立美術館の収集、展示、教育普及活動などの活動を援助することを通じて、地域文化の振興発展に頁献してきたわけであります。 財団の文化支援の実行機関として直接恩恵を受けてきた三重県立美術館は、深い敬意と心からの感謝の念をこめて、その成果を振り返ってみたいと思います。

 

岡田文化財団の寄贈による作品は、439点に達しました。それらの作品群は、今回展覧会として紹介するように、岡田コレクションというひとつのまとまりとなり、三重県立美術館のコレクション全体のなかでも重要な位置を占めています。 それらは常設展や企画展などさまざまなかたちで展示され、その都度多くの人々の心に深い感動を与えてきましたが、これらのすぐれた文化財はまた、後世の人々への贈物として確実に伝えられていくことになります。

岡田コレクションは、西洋美術と日本美術という風に大きくふたつに分けて説明すると、その内容がわかりやすいと思います。 財団による最初の寄贈作品は、マルク・シャガールの《枝》(昭和56年=括弧内は寄贈年)でした。花束に囲まれて空中を浮遊する若い恋人たちを描いたまさしくシャガールという幻想的な青い画面のこの大作は、鑑賞者にもっとも親しまれている作品のひとつです。 シャガールはその後、38枚組の版画《サーカス》(昭和57年)が加わりました。

順々にあげていくと、ジョアン・ミロ《女と鳥》(昭和60年)、クロード・モネ《ラ・ロシュブロンドの村》(昭和61年)、オーギュスト・ルノワール《青い服を着た若い女》(昭和63年〉、エドガー・ドガ《裸婦半身像》、ジョルジュ・ルオー《キリスト磔刑》、 ラウル・デュフィ《黒い貨物船と虹》(いずれも平成3年)、フランシスコ・デ・ゴヤ《旅団長アルベルト・フォラステール》(平成5年)などであり、いずれも巨匠たちのそれぞれに特色のある作品です。

個々の作品については別稿の解説に委ねますが、たとえばミロの《女と鳥》は、黒いフォルムが画面にダイナミックな緊張感を生み、円熟期のミロの芸術の特質を示す作品であり、モネの《ラ・ロシュブロンドの村》は、 岡田文化財団10周年の折りの『岡田文化財団寄贈作品集』のなかで陰里鐵郎前館長が指摘しているように、フランスの作家オクターヴ・ミルボーが「悲劇的風景」と呼んだ興味深い作例です。ルノワールの《青い服を着た若い女》は、豊潤な官能表現で知られるこの画家のもうひとつの側面をみせてくれます。 黒と白を効果的に使って理知的な人物表現にもすぐれた技量をみせた、ごく初期のまさに珠玉の作品といえるものです。また、ゴヤの《旅団長アルベルト・フォラステール》は、ちょっと疲れたような人間くさい軍人の肖像で、鋭い人間観察によって肖像画の名手といわれたゴヤらしい作品であり、 日本に伝来した数少ないゴヤの油絵です。

イタリアの画家アントニオ・フォンタネージが日本で描いた《沼の落日》(平成6年)は、日本美術に入れた方がよいのでしょうが、ここでふれておきます。 明治9年に創設されたわが国で最初の美術学校であった工部美術学校に招かれ、2年後の明治11年まで、ごくわずかな期間だが日本の洋画に深く大きな影響を与えたフォンタネージの滞日中の作品はほとんど残っていません。 《沼の落日》は、明治初期の日本の洋画家たちが師と仰いだこの画家の日本の風景をモチーフとした典型的作例として貴重であり、きわめて希少価値の高い作品であります。

日本美術のコレクションは、昭和57年に財団の二番日の寄贈作品として、宇田荻邨の《祇園の雨》からはじまりました。 荻邨は松阪出身で京都の日本画を代表する画家であり、この《祇園の雨》は荻邨の戦後の代表作といわれながらアメリカに渡っていたもので、おくにがえりとして話題になりました。 荻邨の作品は、さらに昭和62年に、画家のアトリエにのこっていた下絵や写生帖など大量の作品や資料が財団によって寄贈されました。下絵178点、写生帖121冊ですが、これらの資料は個々の画面に換算すれば優に3000点はこすものと思われます。 画家の制作のプロセスを明らかにするこれらの資料は、荻邨研究さらには近代日本画研究の基礎資料として貴重であり、そればかりでなく下絵のあるものは、本絵と異なった生の未完の魅力があり、それ自体鑑賞価値の高いものです。

さらにまとまった資料として、平成5年に一括収集した村山槐多、関根正二、安井曾太郎、長谷川利行らの素描、スケッチ、画稿、詩稿などは特筆すべきものです。 とくに夭折の天才といわれ、いまなお多くの人々に哀惜されている槐多58点、関根56点の資料は、作品の絶対量が少ない画家たちだけに、この集積は意義深いものです。 それらはこれまでも展覧会に出品されたり、出版物に収録されてきたものを多く含み、鑑賞価値としてすでに定評があるものですが、近代美術研究の原資料としても貴重なものです。

油彩画では、須田國太郎《信楽》(昭和58年)や藤島武二《大王岬に打ち寄せる怒濤》(平成9年)は、近代洋画史上知られた作品です。 須田の《信楽》は、山裾の農家の集落の秋のたたずまいを緊密な構成と明暗の対照を基調とした色彩の階調で表現しています。 西洋の油彩技法の深い研究のうえに、独自の日本の油彩画の創造をめざしたこの画家が、日本の風物をモチーフに次々と本領を発揮しはじめた昭和10年の制作。須田の作品としては明るい親しみやすい作風ですが、 静かな画面の内部から地熱のようなエネルギーを感じさせる傑作です。

藤島の《大王岬に打ち寄せる怒濤》は、前景は深い視覚で断崖に打ち寄せるダイナミックな波濤を描き、後景の微妙な光の変幻をみせる広闊な水平線、すなわち静と動を巧みに融合した、この画家の風景画の代表的大作です。 単に近代洋画の名作というだけではなく、津に在住したことがある藤島が、大王町波切に取材したこの絵は、三重県にとって格別かかわりの深い作品として、三重県立美術館が是非収集したいものでした。

このほか財団からの寄贈を受けた近世絵画に、曾我蕭白の襖絵があります。蕭白は江戸時代後期の京都の異色画家として高く評価されており、伊勢地方に滞在して多くの作品をのこしたため、三重県にゆかりの深い画家といえます。 この襖絵は、片面に中国の故事にちなんだ《許由巣父図》、もう一面は《松に孔雀図》という蕭白特異の画題と手法による傑作です。もともと播州地方の旧家から流失したもののようですが、昨年重要文化財に指定された旧永島家の襖絵などとともに、三重県立美術館に保存されるのは喜ばしいことです。

岡田文化財団の活動のもうひとつの柱は、展覧会活動の支援です。それは共催または協賛という形式で行われてきました。 三重県立美術館が開催する展覧会のうち大型の外国展、とくに力をいれた自主企画展など、毎年3〜5の展覧会が助成を受けてきました。 前述の『岡田文化財団寄贈作品集』に10周年までのものについて、陰里前館長がそのあらましをのべております。それまでに21企画が共催形式で開かれてきましたが、その後平成10年度まで、共催展が22、協賛による展覧会が16を数えます。 平成5年度からこれまで共催方式で開かれてきた展覧会が協賛方式となり、共催展は、「こども美術館」や「三重の子どもたち展」、平成10年度の「コレクション万華鏡」展や「川喜多半泥子展」などのように、 地域に密着した企画や美術館が創意をこらした企画に焦点が移っております。

こうして振り返ってみると、20年に及ぶ岡田文化財団による美術館活動の支援は、いかに重要なものであったかということをあらためて確認し、心から感謝いたします。 美術館の立場からのべてきましたが、財団では県展や各市の市展を助成し、三重県ゆかりのすぐれた芸術家や新進芸術家の創作活動を支援してこられました(詳細は年譜参照)。 また、近代は伝統工芸の保護育成にも尽力されています。

1980年代の終わりころ、「メセナ」と呼ばれる従来のスポンサー・シップとは異なった無償の文化支援がクローズアップされ、平成2年に「企業メセナ協議会」が発足しました。 その後経済の沈滞とともに、企業によるメセナ活動も後退していったように見受けられます。しかし地方自治体などの財政難の深刻化にともなって、逆に文化支援の意味は、ますます大きくなっていくように思われます。

わが岡田文化財団は、メセナ・ブーム以前にその思想と方法を先取りし、その志を持続して力強い文化支援活動を展開してこられました。 このような財団の支援を受ける三重県立美術館は実に幸運であり、県民の皆様とともにこの喜びを分かち合いたいと思います。 深い敬意と感謝の思いをこめて岡田文化財団の20周年をお慶び申し上げるとともに、ますますの発展をお祈り申し上げます。

(三重県立美術館長)

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