第2章 絵具流しの作品と具体美術協会での活動
1955年7月、芦屋市美術協会主催で「真夏の太陽にいどむモダンアート野外実験展」が芦屋川畔の芦屋公園で開かれた。出品するよう誘われた元永は、透明のビニールシートにインクで赤く染めた水を入れ、四隅をしばって松の枝にぶら下げた。野外展の発案者である吉原治良はこれを見て、「世界で初めての水の彫刻」と評し、元永を具体美術協会に入らないかと誘い、以降元永は具体のメンバーとなり活動するようになる。
水、煙、布を使ったパフォーマンスを行い、具体での活動を始めた元永は、日本画の「たらし込み」という技法からヒントを得て、キャンバス上に絵具を流した大作の制作を始めた。傾けたキャンバスの上をまるで生き物のように這う絵具。一見、全く偶然に流れたようなかたちに見えるが、実際は日頃描き留めておいたメモをもとにキャンバスに下書きをし、その上に絵具を流すという手法で制作されている。
しかし、絵具の溶き方や流し方によってかたちは変化する。イメージとは異なるところへ流れた絵具は拭き取られ消されることもあり、または新たな広がりを生み出すこともあったという。
偶然と必然と自然。いくつものことが重なり合って生み出された作品は迫力にあふれ、私たちを圧倒する。