第1章 初期の抽象作品
三重県立美術館では、1991年に元永定正展を一度開催している.その後の旺盛な活動に触発され、1991年以降今日までの20年近い期間の作品も盛り込み、半世紀以上に及ぶ元永の活動を絵画作品を中心に紹介しようと企画したのが本展覧会である。既に多くの元永定正論があるなか、新たにつけ加えることは少ないが、本稿ではいくつかのキーワードにそって元永の作品に迫ることにしよう。
1952年、30歳のときに神戸に移り、新聞拡張員、アイスクリームのセールスマン、駐留軍要員、社交ダンス教師、子どもの絵の教師などをしながら制作を続けていた元永は、1953年の芦屋市展で抽象画に出会い、抽象画の制作を始めるようになる。1955年、吉原治郎の誘いを受け、具体美術協会に参加。以降、具体美術展で精力的に作品を発表している。
ここで紹介する初期の抽象作品は、具体美術協会に参加し、抽象画を描き始めた頃の作品である。まるい太陽のようなかたち、キャンバスの端をぐるりとまわり伸びる細長いかたち、宙に浮かぶくらげのような三角形、頂点にぽつぽつと芽が生えた山のようなかたち。
これらの初期の抽象作品は、のちに制作される作品と比べるとかなり小さなサイズのものが多い。加えて色彩も比較的暗い、落ちついた色味のものが多いように思われる。しかし、画面に描かれるかたちは穏やかなユーモアを感じさせ、現在まで続く元永定正作品に特有のおおらかな雰囲気が漂っている。