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川のワークショップをプランニングして

近藤真純

三重県立美術館では、平成7年度より夏休みに子どもたちが住む町に出かけて「〈発見!わたしの村わたしの町〉 ワークショップ」を実施しており、今年度の御薗村で11回目となる。毎年、異なる地域で開催するわけで、その地の子どもたちに体験してほしいテーマや内容を考える。そのテーマ・内容は、当然、その土地の自然や生活文化等の特徴と関わったものとなってくる。毎年、どこで開催するかということに頭を悩ませるのであるが、回数を重ねてくると、当館がまだ扱っていないテーマを扱える場所ということも開催地の選択に大きく関わってくる。川をテーマにしたワークショップは、今まで実施したことがなく(プログラムの一部に入ったことはあった)、以前から扱いたいと考えていたテーマの一つである。

御薗村を今回選んだのは、昨年度未の御薗村教育委員会からの働きかけの他、実施したいテーマと合致する可能性のある地域であったことも要因の一つとしてあげられる。御薗村では、前年に独自で「御薗すてき発見ワークショップ」を開催していた。近年、県内でその土地独自のワークショップが開かれるようになってきているが、その中でも、御薗村は、もっとも活発な活動を展開している地域の一つである。本年は、「御薗すてき発見ワークショップ」と当館が実施してきた「〈発見!わたしの村わたしの町〉 ワークショップ」が合体する形で実施されることとなった。当館から見れば、地域がより主体的にワークショップの開催に携わってくれることとなり、ワークショップの前後に「御薗すてき発見ワークショップ」実行委員会・御薗村教育委員会主催で「大人のためのワークショップ」とワークショップ参加アーティストであるスタン・アンダーソン氏の講演会も開催されるなど、地域における効果がより広がりのあるものとなった。

御薗村での開催が決まった時、御薗村の入り口に大きく横たわる宮川を目にして、「ここであれば、川をテーマにしたワークショップができるのではないか・・・。」という思いを持ちながらも、今一度、御薗村の特徴とはいったい何で、そこに住む子どもたちに伝えたいものが何かを探し出すことから始めた。その名の由来となった伊勢神宮との関係や、御頭神事、臥龍梅などが古くから御薗村に伝わり、子どもたちに目を向けて欲しいものがいくつかあったが、御薗村についての取材が進むにつれ、私の中で宮川の存在がいっそう大きくなっていくと共に、御薗村は3つの流れが交差する場所であることに気が付いた。第一に、宮川そのものの流れであるが、それは単に川が流れているといったことではない。宮川は、平成3年と平成12年に日本一の美しい水質の河川と認められその清流を守ろうと熱心な活動が行われている。御薗村はその河口付近に位置する村であるから、宮川の美しさを守ろうとする人々の思いをはじめ、宮川に関わる様々な人々の思いも上流から流れ込んできている場所といえる。第二に、人の流れである。近世からお伊勢参りが盛んになり、今まで数限りない人がこの地を通過しており、宮川の御薗周辺には、明治になるまで橋がなく、全国から伊勢神宮へ向かう人々にとっての最後の難所で、3カ所の渡し場があった。御薗村にも磯の渡しがあり、他にも昭和18年まで使われていた上條の渡しなどがあり、今もその跡が残っている。御薗村は、この川を渡りきったところに位置する村であり、神域とされてきた。御薗村にたどり着いた人々は、いったいどういった思いを抱いたのであろうか。第三に、時間の流れである。大雨の度に河川が氾濫したり、その流れが頻繁に変わるなど、生活に決して万全ではない土地でありながら、人々がこの地に愛着をもち、宮川の恵みや水上交通の便の良さなどを活用しながら、長い時の流れの中で生活を営んできた。これら様々な流れの中での人々の思いを少しでも感じられるようなワークショップにしたいと考えるようになった。

ワークショップのアイディアの出発点は、子どもたちの手で宮川に橋を架けたいというものであった。こういった内容ならば、川の流れと人の流れの2方向の交わりを直接感じることができるし、時の流れも活動の中で自然と感じる場面が出てくると考えたからである.しかし、御薗村での宮川の川幅は、二百数十メートルあり、深さも大人の背丈をはるかに超えるものであったため、実現は難しく、河川法の上でも問題があった。そこで、川原の片側から近くの中洲まで班ごとに様々な橋を渡す(安全に中洲に渡るためのものをつくる)ことをプログラムの中心に据えたいと考えた。この基本案に基づき、どういったアーティストとコラボレートすればワークショップが面白いものになるかを考えた。何人かの候補作家を挙げ、いろいろと考えた末、昨年度の「御薗すてき発見ワークショップ」の参加アーティストであったスタン・アンダーソン氏を引き続き招聘することにした。子どもたちが夢中になるワークショップを展開するアーティストということは昨年度の「御薗すてき発見ワークショップ」で実証済みであったし、中洲までとはいえ橋を架ける大がかりなプランには、彼の行っているワークショップのダイナミックな活動が不可欠だと考えたからである。また、アンダーソン氏自身が川のワークショップをやったことがないというのも、その出会いによってどういったものが生み出されていくか非常に魅力的であった。

橋を架けるという活動を実現させるために、中洲までの距離が近すぎず遠すぎず、適当な深さがあるが流れが緩やかで比較的安全といったポイントを探して、何度も宮川の中に入って場所選びをした.また、夏のワークショップの場所選びのポイントの一つとして、日陰が確保できるかということも大きな要因である。炎天下での活動は、参加者の体力等を考えると、時間を限る必要が出てくるのである。幸いなことに橋を架けるのに最良のポイント近くの河川敷の林には、ちょうど数十人が活動するのに適当なスペースが広がっていた。

開催場所を決め、その場の空気をゆっくりと感じ、林と川を交互に眺めるうちに、ワークショップのプログラムを橋を架けるだけで終わらせるのが惜しくなってきた。橋を架けることができたら、きっとそれは子どもたちに大きな達成感をもたらすだろうが、子どもたちの発想にもっと広がりがあってもいいだろうし、子どもたちにとって、つくる必然性がもっと高いものの方が良いように感じた。また、大人のためのワークショップを開催することが御薗村の要望で決まっていたが、何とかこの2つを関連づけたいと考えた。そこで、大人のためのワークショップを子どもたちのワークショップの2日前に設定して、林の中に子どもたちの発想を刺激するようなものをつくり、子どもたちのワークショップでは、橋にとどまらず、大人がつくったものを起点に川の方に向かって宮川をもっと楽しむためのものをつくり、中洲に一休みできる場所もつくって、大人も子どもも楽しめる3日間限りのリバーランドにしようと計画立てたのである。

ワークショップのプログラム作りは、私が起案し、アンダーソン氏と相談して実現への技術的な裏付けをもらい、さらに、「材料などの準備が可能かどうか」、「実現のためにはどのようなスタッフの動きが必要なのか」などを実行委員会事務局と検討を重ねていった。そして、以下のようなプランができたのである。

8月24日(金)
1.石を見つめてみよう〜活動を見守ってくれるものをつく ろう
・こんちゃん(ファシリテーター)登場!
・こんちゃんが持ってきた石を選ぼう。
・選んだ石と似た色の石を集めよう.
・班で並べてみよう。
・イニシャルのお守りをつくろう。
   枝と石と麻糸を素材にする.
  接着剤などを使わずに糸を結んでくっつけていく。

2.リバーランドをつくろう1
・川をもっと楽しむためには、何をつくればいいかな?
・自然と遊ぶ達人アンちゃん(アーティスト)登場!!
   アンちゃんの作品を見よう
   アンちゃんの技を見よう。
・川をもっと楽しむためのものは、どんな形がいいかな?
  橋、高見台、いかだ、滑り台等。
  麻布にアイディアスケッチをしよう。
   ごっつEsがつくった炭を使おう。
・川をもっと楽しむためのものをつくろう。
  材料を集めよう.
   班で協力してつくろう。

8月25日(土)

3.リバーランドをつくろう1続編
・川をもっと楽しむためのものをつくろう。

8月26日(日)

4.リバーランドをつくろう 2
・お休みどころをつくろう。

5.リバーランドをつくろう 3
・リバーランドをネーチヤー・カラーで飾ろう。
・お守りもつけよう。

6.リバーランドで遊ぼう
・宮川の特徴も感じてみよう。

7.まとめ

このプログラムでとにかく心配だったのが天気である。当日の雨はもちろん、川の中での活動ということで2・3日前の雨でもプログラムに影響が出ると考えられた。現地での活動が不能な場合は、近くの学校の講堂で実施することになっていた。その場合は、麻布で川を作り、建造物は、橋に絞ってつくることにしていた。しかし、子どもたちに宮川を感じさせようにも、実物を目にしながらの活動でないため、形ばかりのものになる危険性をはらんでいた。そこで、8月23日の大人のためのワークショップで、「河川敷に生えている木に屋根をつけて、遊び心あふれるワークスペースをつくろう。」をプログラムの中心に据え、子どもたちのワークショップは多少の雨でも現地で活動ができるよう企てた。

大人のためのワークショップ前日の8月22日に台風が三重県を直撃した。速度の非常に遅い台風で、ほぼ半日かけて県内を通過し、各地に大きな被害をもたらしていった。翌23日も雨は上がっていたものの強風が吹き荒れていた。そんな中、御薗村内や県内外から多くの人の参加をえて、大人のためのワークショップが開催されたが、予定のプログラムを実施することができず、「結びの方法やアーティストの技を覚えよう。」「材料を探しに行こう」が中心になった、23日の時点で、宮川は全く人を寄せ付けないはど増水しており、子どものワークショップでは水位の変化を見守りながら、できる範囲のことをやらざるをえなかった。子どものワークショップが実際にはどのように進んでいったかについて、詳しくは、後ろの「ワークショップの記録」のページにまかせるが、川の中になかなか入れなかったり、川の中で自由に活動できなかったため、川をもっと楽しむためのものをつくるまでに予定より多くの時間がかかり、お休みどころをつくる活動と、リバーランドをネーチヤー・カラーで飾る活動については、簡単にせざるをえなかった。

今回のワークショップは、楽しさが前面に立つ活動であった。しかし、プログラムを進める中で「御薗村で交差する3つの流れ」と「御薗村のすてき」などを感じ取ってくれることを願い様々な手を打ったつもりである。子どもたちが遊ぶものは普段大人から与えられたものが多く、今回のようにこれだけ大きなものを自分たちの手でつくり上げた経験はほとんどなかったであろう。だれでもが最初に「できるのだろうか。」と不安に感じた作業を協力しながらやり遂げ、それを使って夢中になって遊んだ記憶が、一人ひとりの自信になって育っていくと共に、今回の活動の中に込めた願いが宮川や御薗村への愛情となって思い起こされることを期待したい。

(こんどうますみ・三重県立美術館主事)

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