このページではjavascriptを使用しています。JavaScriptが無効なため一部の機能が動作しません。
動作させるためにはJavaScriptを有効にしてください。またはブラウザの機能をご利用ください。

子どもたちのための展覧会を目指して

近藤真純

最近、美術舘でも子どもたちを対象とした造形にかかわる活動が重視されるようになり)、全国の美術館で、ワークショップなどの活動がきかんに行われるようになっています。三重県立美術館でも、子どもたちの造形にかかわる活動として、「三重の子どもたち展 発見!わたしの村わたしの町」とこの展覧会の一環として実施される「〈発見!わたしの村わたしの町〉ワークショップ」が行われています。美術館における造形活動が、学校における美術や図工の授業と大きく異なる点は、後者が日常生活の中で断続的に行われているのに対して、前者は、特定の対象者に対して長期的なプログラムを実施している場合以外は、その多くが対象となる子どもたちが次々とかわっていくことで、参加する子どもたちそれぞれにとって、日常生活の中にあるものではなく、イベント的な性格をもったものである点です。

また、本展第1部〈生活の現場から〉と第2部〈教育の現場から〉の子どもたちへのせまり方にも違いがみられます。第1部は、その一環として子どもたちの夏休みに行った「〈発見!わたしの村わたしの町〉ワークショップ」の再構成ですので、子どもたちも展示に加わり、参加した子どもたちへの直接的な働きかけができます。それに対して、第2部は、学校の先生方による展示という形での働きかけですので、子どもたちが美術館に足を運んで展示を見に来てくれた場合以外は、授業などの日常の取り組みの中にどのような形で返っていくかなど、先生方に委ねる部分が非常に大きくなっています。

当館が子どもたちの住む地域に出かけていって行っている「〈発見!わたしの村 わたしの町〉ワークショップ」は、子どもたちの“生活の現場”である地域とかかわりの深いことを素材にして取り上げています。そして、このワークショップは、参加した子どもたちが地域の自然や歴史、文化、さらにはその地域に住む大人がもっている生活の知恵や技などに触れる様々体験ができるように考えています。イベント的な性格をもつものであるからこそ、子どもたちが日常生活の中で目にしているにもかかわらず気づかないでいたものを発見・再認識したり、五感を通して感じ取る機会となる可能性をもっているわけです。その体験に子どもたちがどのように感性を開き、その後の生活に生かしていくかは、子どもたち一人ひとりに委ねられるわけです。

本年度実施の関ワークショップで、子どもたちは、江戸時代の旅寵である玉屋で家について考えることをを出発点に、関のまちなみを探索し、スケッチで確認しながら多くの宝物を発見して、関のまちなみ全体の美しさや風情を感じ取れていたようです。さらに、その体験をそれぞれの中で昇華し、そこからイメージを広げて自分たちのまちなみをつくりあげました。このような活動の中で、家はそこに住む人々の生活が結集してできているものであることや、様々な人々の気持ちのつながりが、日本全国をみても稀有な美しいまちなみを時を越えて関町に残していることに、子どもたちが気づいてくれればと考えました。

尾鷲ワークショップでは、子どもたちが発想を柔らかくしながら、「雑木林でドッジボールやで」や「ハコトラをつくって遊ぼう」などで多くの自然と遊んだり、自然の恵みを生活の中で生かしている大人たちの知恵や技に触れながら、自然のよさを感じ、自然とどう向きあっていけば良いのかを考えるきっかけとなればと考えました。さらに、尾驚ワークショップでは、直接言葉では働きかけないものの、子どもたちに体験を通して感じ取ってもらおうとしたことがありました。その一つが、初日の活動を隣町の海山町の山林で行ったことです。これには、自分たちの住む地域をもう少し広い視野で尾驚地域として見つめてもらおうというねらいがあったのです。また、この山林は、人間が自然といかに共生するかということを考えてつくられた非常に美しい山林なのですが、2日日・3日日の会場をごく身近にある都市公園としたことで、近くにありながらあまり足を踏み入れることのない山林に見られる自然と、都市公園の中に取り込まれた自然とを比較できるようにしました。

このワークショップは、準備段階で、美術館がファシリテーターを依頼するところから始まり、美術館とファシリテーターの二人三脚により始まります。開催候補地の教育委員会と交渉し、開催地が決まると、その地域の特徴を洗い出す作業に入ります。同時に、二人三脚は、その地域の教育委員会を加えた三人四脚となっていきます。その地域に住む子どもたちに働きかけたいテーマが決まり、地域で実行委員会が立ち上がり、アーティストが決り、会場が決まり、プログラムや準備物、そして参加する子どもたちが決まっていきます。手を携える人が増えるにつれ、ワークショップの内容が徐々に形あるものとなっていきます。そして、主体的に手を携え合える人が増えれば増えるほど、ワークショップのもつ吋能性が広がっていきます。

本年度開催の関ワークショップは、関町子ども会育成者連絡協議会が主催する「玉屋宿泊体験学習会」の中で実施しました。関ワークショップ実行委員会も、宿泊学習会のスタッフである子ども会や関まちなみ保存会のメンバーが中心となって構成されました。尾鷲ワークショップでは、自然や造形・子どもなどにかかわる様々な人々に参加してもらって、実行委員会が構成されました。さらには、子どもたちに伝えたい生活の知恵や技を持っている人々などにも当日のスタッフとして参加してもらいました。多くのみなさんの気持ちに支えられてワークショップは実施されたのです。

このように、地域の様々な大人の方々にかかわってもらってい、それぞれの地で実行委員会を立ち上げているのは、大人が子どもたちにとって生きた教材として重要であると共に、イベント的な活動を単なるイベントとして終わらせない可能性を探るためでもあります。ワークショップは、子どもを対象にしていますが、大人にとっても様々な発見や感動を子どもと共有できる場であると思います。そこで得た発見や感動は、「子どもとどう視線を合わせていけばいいのか」、「子どもをどのように育んでいけばよいのか」「地域のよさをそれまでとは違った角度で掘り起こし、どのように人に伝えていくか」など、その地域の未来である子どもたちと絡み合いながら、その地域のその後につながっていく可能性を秘めています。さらには、「ワークショップの中で生まれたり深まったりした地域の大人同士のつながりや行政と市民(町民・村民)のつながりが、その後どのような形で地域での日常生活のなかに生かされていくのか」など、その可能性の広がりは、尽きることがありません。

もちろん、このワークショップの効果を開催地だけでなく、他地域にも広げていくべきだと考えています。そのため、県内の先生や県内外の学生にワークショップのスタッフとして参加してもらったり、本展の第1部として紹介したり、この記録集で活動を県内外に発信するなどしています。しかし、当然のことなのですが、開催を経験した地域と他地域のワークショップに対する関心や効果の差は大きく、他地域への波及効果は限られたものとなっています。この取組をどのように他地域につなげていけばよいかを探ることは、これからの大切な課題と言えるでしょう。

本展第2部〈教育の現場から〉では、県内全域の学校現場から募集し、出品してもらった3歳児から中学生までの作品を地域ごとに3ブロックに分けて紹介しています。本展第2部は、学校の先生方と当館がそれぞれ主体的な態度で協力しあいながら、つくりあげる展覧会です。そして、どうしたら子どもたちの思いや息づかいが伝わるような展示になるのか、具体的な部分は、学校の先生方を中心とした委員のみなさんに任せています。子どもの表現で大切なのは、結果よりもそのプロセスにあることは、学校の造形活動でも美術館の造形活動でも変わらないでしょう。制作の現場に立ち会っていない第三者は、作品からそれを推測するしかないのですが、限られた空間の中に県内ほぼ全域から膨大な数の作品が集まってくるわけですから、展示で作品のプロセスやその時の子どもたちの心の動きなどを感じられるようにするのは非常に難しく、第2部委員のみなきんには試行錯誤を繰り返してもらっています。しかし、このようにして県内様々な地域の先生が美術館に集まり交流しながらつながっていくこと、さらには、各地域で委員のみなさんが先生同士のつながりを子どもたちの作品を核としながら深めていただいていることには、大きな意義があると思います。

本展第2部は、前述したように〈教育の現場から〉と題しているのですが、実のところ“教育の現場”は、子どもたちの生活の大部分を占めるものであり、家庭での生活や地域での生活と相互に生かすことのできる教育がなされるのが望ましいと考えます。当館が、本展のタイトルに「発見!わたしの村 わたしの町」という言葉を入れて、そこにつながるような作品を出品してもらえるようよう働きかけているのは、人が人として生きていく上でとても重要な感性と深くかかわる造形活動の教科から、子どもたちに学校・家庭・地域での生活を見つめてもらい、豊かに表現していくような活動がなされる一助となればと考えているからです。

そして、第1部と第2部をどのように関連づけていくかが、本展のこれからの大きな課題となるでしょう。展覧会としてどのような形で現れるかは別として、〈生活の現場から〉と〈教育の現場から〉がつながり、お互いに影響しあいながら、それぞれのポジションだからこそできる取組が何なのかを考えて、子どもたちの感性を揺さぶり、生活を見つめるきっかけとなっていけばと考えています。

本展は、述べてきたように、実に様々な人々が関わり合ってできあがっている展覧会です。多くの人々の手や考えが入ることによって、その中での美術館の主体性が希薄に感じられることもあるようです。そのため、本展を「美術館でやる意義は何なのだ」と問われることもあります。しかし、「美術館でやるべきこと」というよりは、「地域社会のために美術館ができること」という視点を大切にしたいと考えています。そして、現に今、ワークショップや本展は、様々な立場の多くの人々が、子どもたちのために、意見を出し合い手を携えあえる場となっており、他にこのような場が少ないことから、なくしたくない大切なことであると考えています。そして、地域の人々が生活を心豊かに向上させていくために、これからも、社会の中で、本展や美術館がどのようなことができるのか、さらに効果的に働きかけていくにはどうすればよいのかを考えていかなければならないと思っています。

(こんどう ますみ・三重県立美術館)

ページのトップへ戻る