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「三重の子どもたち」展によせて

酒井哲朗

いま私たちは、物や情報の氾濫の中に生きています。こどもの世界も例外ではありません。現在の消費文明の中で、こども市場は大きな存在であるといえましょう。こどもたちは、学習や遊びはもちろん生活のあらゆる場面で、こどもを対象とした物や情報に取り囲まれて暮らしています。大量の物や情報は、作り手から受け手へ、一方的な回路によって伝達されます。その結果、日本国中どこへ行っても同じ現象がみられるという、画一化が生じていることは、私たちが日常的に経験していることです。

いま、こどもたちはほんとうに幸せなんだろうか?

おとなたちは、しばしばこういう疑問をもちます。しかし、それはこどもたちに発せられた問いというより、現状に不安をいだくおとなたちの自らに向けた問いであるというべきでしょう。

このような状況の中で、いったい美術館はこどもたちに何ができるのか?

このような問いのひとつの結果が、「三重の子どもたち」展です。美術というものは、色とか形とかを通じて、人々の感性に働きかけるものです。美術は、豊かな感性、つまり豊かな心を養う上で、有用なものとして期待されています。感性というもの、人間の心の働きというものは、本来各人によって違うものです。美術を知識や技術としてではなく、感性の問題として考える、つまり「三重の子どもたち」展に即していえば、与えられたテーマで絵を上手に描くというようなことではなく、美術以前の生活のレベルで、こどもたちひとりひとりの生き生きした感性を育てるのが大切ではないかということです。

こどもたちが、自分自身の目で物事を見たり、感じたりしてほしい。そのために、まず自分たちが住んでいる場所、町や村の自然や人工物、あるいは家族、友だちなど、自分たちの身の回りに目を向けてもらいたいと考えました。そこで展覧会全体をそのような構想で統一して、「発見!わたしたちの村 わたしたちの町」と名づけ、「生活の現場から」と「教育の現場から」という、二部構成にしました。第一部は、特定の地域で、夏休み中に、こどもたちとファシリテイターと呼ばれる美術教育の専門家と芸術家がワークショップを行い、その結果に基づいて、3月に美術館の展示室で共同制作をします。第二部は、県内の小中学校の美術の先生がたの協力により、学校を通じてこどもたちに作品を寄せてもらうという形式です。

ことしは2回目になり、第一部は桑名市と大王町でワークショップが開かれました。こどものワークショップには定評のある関口怜子さんをファシリテイターに、桑名市では人形作家の岡本潤三さんに来ていただきました。岡本さんは、洗練された伝統技術によるすぐれた京人形の作者でありますが、それだけではなく、人形(ひとがた)をテーマに幅広い造形表現を行う現代的な作家です。大王町には青森県に住む彫刻家の鈴木正治さんに来ていただきました。高齢の鈴木さんが、海岸に漂着した木のオブジェに取り組む姿を通じて、こどもたちがひとりの芸術家の実像にふれることができたのは、よい経験になったのではないかと思います。

この展覧会のもうひとつの利点は、県内のいろんな地域の人々と美術館が結びつくよい機会になることです。すでに、これまで美術館とあまり縁のなかった人々が、美術館に親しみをもつようになる、そんな出来事がおこりはじめています。私たちにとって、大変うれしく心強いことです。

「三重の子どもたち」展は、いまのところ模索状態といっていいと思います。まだまだ試行錯誤を重ねながら、よりよいものを求め、みなさまとともに、発展させていきたいと考えています。

(三重県立美術館長)

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